camellia57
2026-02-01 18:27:30
67473文字
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火アリSSメーカーまとめ

2024~2025年に書いたSSのまとめ。全年齢のみ。ごちゃまぜ
話は独立していてつながっていません。基本的にはページが後ろの方が古いです


 先輩の代理で急遽対応することになったプレゼンが無事に終わり、どこでもいいやと入った定食屋は混み合っていて「奥のテーブルで相席でも構いませんか?」と聞かれて少し迷ったけれど六人掛けのテーブルで先に二人組が入っていて一席空けで座っていいとのことだったので承諾した。カウンター席より広く使えて逆に良かったかもしれない。
 大漁旗が目に入ってなんとなくここに入ったけれどメニューが豊富で運ばれてくる料理はどれも美味しそうだし店員さんがテキパキと動いていて当たりだったかも。残念なのは担当エリア外だから次に来る機会はそうそうないってこと。入口に大きな水槽もあったし――そこで泳いでる子達を捌くわけではないだろうけれど――新鮮な魚が売りっぽいし焼き魚にしようかな。これだけでも種類が豊富で迷う。あ、アジフライもいいし中落ち丼はお手頃。でもそれなら刺身定食もあり。上の刺身定食もある。自分にご褒美? それはちょっと甘やかしすぎかな。うーん、もう無難に日替りにしようかな。うう〜ん、と悩んでいると隣の二人組もメニューを見ながら決められないでいるようで、ついつい聞き耳を立ててしまった。

「アリス。険しい顔してるけど、どれとどれで迷ってるんだ?」
「うぅ〜ん、そうやなぁ……。どれも美味しそうなんやけど鯖の塩焼きと牡蠣フライで決めかねてる……。鯖、大きくてめっちゃ脂乗っててうまそうやったし、でも季節限定の牡蠣フライも食べたいんや……。俺が二人分の胃袋あればどっちも食べられるんやけど」
「じゃあ俺は牡蠣フライにするから分けてやるよ。それでどうだ?」
「えっ。ええんか!? あ、じゃあ俺の鯖も適当に取ってええよ」
「いいよ、お前が綺麗に焼き魚食べてるの見るの結構好きだから」
「綺麗って、君もいつも綺麗に食べてるやん」

 そこ!? そこじゃなくない!?
 思わず二人の会話に内心突っ込んでしまう。いや、突っ込みたくなるところは他にもあるんだけど、この二人、どういう……? ちらりと横目で見ると隣側に座っているのが『アリス』と呼ばれた人で、少し長めの髪で顔はよく見えないけれど白いタートルネックニットを着ている。斜め前の人は短めで硬そうな黒髪に黒いシャツ。薄く笑みを浮かべて向かいの『アリス』さんを見ている。

「刺身はいいのか?」
 ふふんと笑ってアリスさんが答える。
「それは選べる小鉢があるからな〜。あとはプラス料金で味噌汁を豚汁に変えるか悩むところや……
「悩まなくても食べたいもの食べればいいだろ」
「いつでも好きなもの食べていたら色々問題がやな」
「味噌汁が豚汁になったくらいで贅沢してるわけでもないだろ。そんなに食べたかったら今度作ってやるよ」
「ほんまに? でもそれやったら味噌汁の方がええなあ。君の作る味噌汁、婆ちゃん仕込みなんかちゃんと出汁取ってるのがめっちゃ美味しい。うん、豚汁頼むことにするわ。また下宿行ったときに味噌汁作ってくれる?」
「いつでもどうぞ」

 …………。えっ? どういう……関係? お友達……? この全体的に黒い人、意外と――見た目で判断してはいけないけれど――家庭的なお婆ちゃんっ子なの? ギャップなの?

 白と黒の二人組が店員さんを呼んで注文したのに合わせて私も注文を済ませる。結局日替り定食にした。あ、そうだ、一応先輩に終わりましたの報告をしておかないと……。会社のスマホでメールを打ちながら隣の席の会話に耳を傾ける。

「何笑ってるんだ?」
「いや、君、出されたお茶、熱くて飲めんのやなって気がついて。お冷やもらおうか?」
「そのうち適温になるからいいんだよ」
「猫舌は大変やなあ。君、カップ麺食べられるん? 適温になるの待ってる間に伸びてしまうやろ? 伸びたカップ麺はなぁ……いや、ついお湯入れたこと忘れてしまって伸びに伸びてしまうことがな……
「お前、普段そんなものばっか食べてるんじゃないだろうな? 栄養偏るだろ。まあ、食べないよりはいいかもしれないけど。空腹で部屋で倒れるとか勘弁してくれよ」
「締切近い時期は仕方ないやん。それどころじゃなくなってしまうんや」
「計画的に進めておけば締切に追われることもないだろ? スピードが大事だって前にも言ったじゃねえか」
「いや、うん、それは……そうなんやけど……。え、なんで俺、君に説教されてるん?」
「説教してるわけじゃなくて。普通に心配してるんだよ、お前の健康を。大体なぁ、人に言ってないでお前の方が健康診断受けるべきだろ。いつから受けてないんだよ? 独立してからか?」
「え? え〜〜……っと? いつから、やったかなぁ……?」
…………片桐さんに言ってもいいか?」
「えっ!? いや、それは、ちょっと……。問題が…………ほら! やっぱり説教になるやん! もうそんなに心配なら見張ってたらええんちゃう? 君に合鍵渡してるんやし」
……本当にいいんだな?」
「うそうそ。冗談やで? 本気にせんといてや。健診はちゃんと受けるから。そのうちな、な?」
 
 猫舌で心配性の黒い人が大きなため息をつく。こんなに大事に(?)思われているのにアリスさんにちゃんと伝わっているのかなぁ……。アリスさんはフリーランス? なのかな。会社に縛られない働き方は憧れもあるけれどとてもそんな勇気は出ないからちょっと尊敬しちゃう。


「この鯖めっちゃ美味しい! 家で焼き魚って臭いが充満するのと洗い物のこと考えると億劫でなぁ……あ、牡蠣フライありがとな。揚げ物もようせんわ」
「俺はお前が普段何食べてるのか心配になるよ」
「えぇ〜? 一人暮らしも長いから基本的なものは作れるで? 君よりは自炊にマメじゃないだけで」
「簡単に好感度上がる割には食事の優先度が高いんだか低いんだかわかんねぇんだよな……
「自分で作るより人が作ったものの方が美味しいもんやない? 俺、火村の作るご飯好きやで?」
 
 げほっと『ひむら』さんがむせる。某芸人さんの顔が一瞬よぎってしまったことを心の中で詫びる。


「そう言えばな、梅田に創作料理メインのお店が新しくできたらしくて片桐さんが教えてくれたわ」
「なんで片桐さんの方が詳しいんだ?」
「なんでやろな? やっぱり色んな作家を接待で連れて行くからアンテナ張ってるんとちゃう? それでな火村先生とどうですかって言われたから今度行こうや。そこのインスタ見てみたけど雰囲気良さそうやったで」
「インスタ」
「お、俺かてな、作家として情報を得るためにちゃんと新しいサービスを使えるようにしてるんや」
「ほお。それはそれは。大変だったろ? 片桐さんが」
……やかましいわ」

 なるほど。アリスさんは作家さんで『かたぎり』さんはおそらく担当の方。
 ……ちょっとの時間、近くの席に座っただけでわかってしまって大丈夫なのかな? 別に誰に言うわけでもないしアリスさんのペンネームもわからないけれど。


「うまかったな、また来ようぜ。次は別のメニューも食べたいし」
「そやな、あ、ここはまとめて俺が払うから伝票くれ」
「お? 印税がどっさり入った作家先生の奢りか?」
「アホなこと言うな。経費にするからや。あとでちゃんと君から貰うわ」
「はいはい」
「来月の旅行も経費になる予定や」
「出雲への旅行がなんの経費になるんだよ」
「いつかそこを舞台にした話を書くかもしれんやろ? いつかのための取材経費や!」
「そんなんで通るもんなのか? 宿の方も事件現場に使われたらたまったもんじゃないだろうな。まあいいけどまた三月になって領収書見ながら泣きつくなよ?」
……やって、君の方が覚えてるし……。いやちゃんと手帳に記録はしてるで? それを領収書と照会させるのが大変なんや……
「申告の時期にまとめてやろうとするからそうなるんだろ? 毎月整理しておけばいいだけじゃないか」
「またそうやって正論で俺に説教する。わかってるんや。わかってるんやけどな……
「本当にしょうがねえなぁ」
「なあ、それよりも出雲で名前入りの箸作れるらしいで。一緒に作らん?」


 ……それってパートナーと自分の名前を入れるものだったと思うんだけど……
 そもそも出雲って縁結びで有名、だよね? ううーん??


 結局どういう関係の二人なのか決定打に欠けるけど口煩く言いながらも優しい目をして笑う『ひむら』さんにとってアリスさんはとても大事な人なんだろうな。そう言うことからは少し距離を置いていたから少し羨ましい。
(アリスさんにその思いがちゃんと届くといいな)

 また会うことがあるかもわからない二人の幸せをそっと願って席を立つ。
 今日の仕事はいつもより頑張れるような気がした。