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camellia57
2026-02-01 18:27:30
67473文字
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火アリSSメーカーまとめ
2024~2025年に書いたSSのまとめ。全年齢のみ。ごちゃまぜ
話は独立していてつながっていません。基本的にはページが後ろの方が古いです
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「うわ、君なんちゅう顔してるん」
婆ちゃんから火村が落ち込んでいる様子だと聞いて北白川にやってきて見れば分かりやすく空気をどんよりとさせた火村が自室にいた。そんな様子を彼の愛猫達も感じ取っているのか膝の上に座ったり寄り添ったりして慰めているようにも見える。心ここに非ずといった調子でぼんやりと小次郎の背中を撫でる火村。いつもならそんな気持ちの入っていないスキンシップでは逆効果になってしまうのに今回は許されているようだ。
「アリス
……
」
部屋に入ってくる私の姿を見つめる目に生気がない。
婆ちゃんから聞いたときは火村に限ってそんなことはないだろう。おおげさに言っているだけなのでは? という気持が少からずあった。しかしこれは想像よりも重症なのではないか? 火村がここまでになってしまうなんて何があったというのだろう。
「どうしたん?」
「俺は
……
大切なものをなくしてしまったんだ
……
」
「大切なもの? 落としたん? 警察行ったか? まだやったらついてくから遺失物届出しに行こうや、な?」
「落としたんじゃないんだ。俺が間違っちまったんだ」
落とし物ではない? となると財布や金品の類ではないということか。
間違ってしまったとはなんだろう? 論文を保存し忘れたとか?
書いた原稿が痕跡なく消えてしまった想像をしてあまりの恐ろしさに鳥肌が立つ。
「データの類か? ま、まぁ、保存失敗はあることや。また一から書き直したら前よりいいもんに仕上がるかもしれんし、な?」
それも違うと首を振る。
「ええ
……
? これでもないん? そやったら
……
。あ、君スマホ新しくしたんやね」
座卓の上に置いてある火村のスマホが変わっていることに気づく。四年ほど使っていただろうか? それだけ使うと色んな反応が遅くなってくるらしく、まるで人の老化みたいだと毒づいていた。
新しいスマホ、がNGワードだったのか大きく溜息をつかれる。
「失われたものは戻ってこないんだよ、アリス。失敗は許されなかった。失敗は成功への近道なんて大嘘だ。手順通りにしたはずなのに結果はその通りにならなかった」
「あーもう! 一体なんやねん! はっきり言え!」
「アリスとのラインのトーク履歴が引き継げなかった」
は?
それだけ?
たったそれだけでこんなにへこむのか?
火村が?
「え?」
「四年分の二人の記録が消えたんだぞ? 悲しいなんて言葉ではおさまらないだろ」
「いや基本、事務的な連絡しかしてないやろ」
「それも大切な思い出だろ!?」
「そうか?」
「アリスが寝落ちする前の意味不明な文字の羅列も片桐さんと間違って送ってきたメッセージも頼まれた買い物リストも締切前の現実逃避した報告も全部なくなったんだぞ!?」
「いやそれはむしろ消えてほしいやつやから」
「俺の精神世界にとっての損失だ
……
。大体トークを復元できてないのに復元完了っておかしいだろ。完璧に戻してみせろよ。引き継ぎ前の機種で確認しようにももう見られなくなってるし。選択肢が閉じるか削除しかないってどういうことだよ。利用できません? じゃあアリスと俺のトークはどこに消えたんだよ。こんなことなら印刷でもしておけばよかった。やはりデジタルデータはだめだ。これからはアナログの時代だよ」
はああ
……
と一段と大きな溜息をついて肩を落とす。
火村の嘆きにまったく共感が出来ない私は置いてけぼりだ。
「なあ、なんでこの機種にしたん?」
「動いているものも綺麗に撮れると紹介されてたから」
つまりは愛猫達のかわいい瞬間を逃さないためか。よき父親である。
「そないに落ち込まんでも俺の方には残ってるんやから、なにもなくなったわけやないやろ?」
慰めるつもりでそう言うと勢いよく顔を上げた火村が迫ってきて私の両肩を思いっきり掴む。痛いのだが!?
「な、なんや」
「そうだよ、アリス。その通りだ。二人のことだもんな。アリスの方に残っているのは当たり前じゃないか。どうしてそんなことにも気が付かなかったんだろう」
笑い出しそうなくらい高揚している火村に軽く引いてしまう。
「アリス、頼みがある。スマホを貸してくれ」
「いやや」
「俺とアリスとのラインしか見ないから。記憶するだけだから」
「いややって」
「なんで」
「なんでもなにもない。さっき言ってたみたいなん見られたないし。写真がまた見たいなら送ってやるから。だから見せるんはいやや。それに君の脳のメモリはもっと大事なことに使った方がええよ」
「アリス
……
」
「そんな目で見ても駄目やで。恥ずかしいからいやや」
「どうしても?」
捨てられそうな子犬のような目をして私を見る。
「頼むよ、アリス。お願いだ。見せてくれ
……
」
何年経ってもその顔と声には弱いのだ。
「十分や。十分経過したら没収。データを転送したらあかん。見るだけやからな」
何度も念を押してスマホを渡す。火村が不正しないかをその後ろで監視する。
真剣すぎる瞳でトーク履歴をスクロールしていく火村。
八分、九分
……
最後まで気が付かないでくれと願いながら時間が過ぎるのを待つ。
ピピピッとタイマーが鳴り、スマホを私に返しながら火村が告げる。
「案外アリスは俺の何でもない言葉をブックマークしてるんだな」
「!?」
「それを見られたくなかったんだろ? 黙ってた方がいいんだろうけどそわそわしてたから気づいちまった。悪いな」
「さ、最悪や
……
」
「なんで?」
「なんででも!」
『おやすみ』『お疲れ様』『これから帰る』
そんな言葉をお気に入りにしていたこと、知られたくなかったのに。
『桜が咲いた』『庭の花が夏の面子になってきた』『最近ススキ見なくなったよな』『京都は雪だぜ』
たまに撮って報告してくれる写真をアルバムに保存していたこと、気づかなくてよかったのに。
「四年分に追いつけるように毎日送ろうか?」
「いらんわ、アホ」
すっかり元気を取り戻した火村がおニューのスマホで撮った愛猫達の躍動感溢れる写真を連続で送ってくるのをそっとKEEPした。
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