camellia57
2026-02-01 18:27:30
67473文字
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火アリSSメーカーまとめ

2024~2025年に書いたSSのまとめ。全年齢のみ。ごちゃまぜ
話は独立していてつながっていません。基本的にはページが後ろの方が古いです


「君、あんまり誰にでもニコニコせん方がええんとちゃう?」
 今日のフィールドワークを終えて私のマンションで一通り情報を整理し終えたところでそう火村に言うと、笑顔とは程遠い顔で「はあ?」と返してくる。
 時として無愛想で生徒たちからは強面の先生と思われていることが多い火村だが、ファンサービスと称して手を振ることもあるし、状況によっては警戒心を解いてもらうために親しげに振る舞うこともある。今日もそんな姿を見てある意味感心したのだけれど。
「俺から見たら胡散臭い作り笑顔やけどそれに騙されてややこしいことになったら君かって困るやろ?」
 そうでなくても秋波を送られることが多いのだから、相手に誤解されるような態度は控えた方がいいのではないか? という私なりの親切心で言っているのだ。
「ややこしいことってなんだよ?」
 どうでもよさそうな声である。こちらを見もしない。人の気も知らないで。
「相手が君に本気になって色恋沙汰になったらどうするんやって忠告や」
 そう、今日会った被害者の友人と言う彼女も、事情聴取の終わりにはそんな色の目をして火村を見ていた。
 一見無口で怖そうな男性が案外優しげに笑う姿にギャップを感じて惹かれる女性は少なくないらしい。笑ったところでなんのギャップも感じてもらえない私としては不服だが。
「ばかばかしい。第一、笑えって言ったのはお前だろうが」
 煙草を灰皿に押しつけてこちらに向き合ってくる。
 おい、煙を顔に吹きかけるのはやめてくれ。煙いやろ。
「俺?」
 思い出そうとしているけれどまったく心当たりがない。
 そんな私の顔を見て火村が海外のホームドラマで見るような肩を竦める仕草をする。様になっているように見えるのが癪である。
「そんなことだろうとは思ったけどな」
「それほんまに俺? 誰かと間違えてるんとちゃう?」
「アリスが昔俺に言ったんだよ。『もっと笑ったらいいのに』って。なあ、これでも思い出さない?」

『もっと笑ったらいいのに』

 大学時代、火村が冷たそうだの怖そうだの噂されているのを耳にして、話してみればそんなことがないとわかるのにと悔しい気持ちになった。本人だって噂を知っているだろうにさほど気にしてないように見えることが余計に私を複雑な気持ちにさせた。彼が下宿先や野良猫を見かけたときに見せる顔を知ったらきっとそんなこと思わないはずなのにと。
 それで「よく知らない相手にももっと笑えばいい」なんてことを口走ってしまった。そんなことをする必要があるか? と言われたけれど「君みたいなタイプは笑ったら効果絶大やで? 別に普段からへらへらしろって言うてるんとちゃう。会話の中でちょ〜っと表情筋動かすだけで相手がよく思ってくれるんやったら楽でいいやん? 騙されてるなあって思ってればええ。そういう処世術かって必要やで。象牙の塔で戦っていくつもりなら尚更な」と返してやったら多少は響いてくれたのか「考えておく」と言っていた。

「あのときの、実践してたんか……
 当時、どうしたのか確認したりはしなかったから今まで知らなかった。
「アリスの言う通り、効果はあったからな。それを今になって『誰にでも笑うな』なんてまるっきり反対のことを言われるとは思わなかったぜ」
「いやまあそれは……
 綺麗さっぱり忘れていたのだから仕方ないではないか。
「あのときはよくて、なんで今は駄目なんだよ?」
 リビングテーブルの角を挟んで斜めに座っていた火村がこちらに近づいてくる。
 なぜ駄目なのか? それは……
「相手が誤解するから……?」昔もそれが理由だった。あのときは笑えと言ったのに。
「騙されてるな、って思っていればいいんだろ?」確かにそう言った。けれど。
……なんか、もやもやする、から……?」昔も同じ気持ちになった。……同じ? 本当に?
「どんな風に?」
「わ、わからん……
「おいおい、投げ出すのが早すぎるだろ?」
 呆れたような言い方だがその声は存外優しい。
「そう言われても、困る」
「なんで?」
 火村がさらに距離を詰めてくる。私の後ろに壁なんてないのに、動けない。
「こわい……から?」なぜそう思うのかはわからない。
 その答えに納得していなそうだが多少は満足したらしい火村が私の目をじっと見つめてくる。
「もやもやなんて、こっちはずっとしてる」
……え?」
「誰にでも同じ顔で笑うし、知らない相手に着いていくし、年上に誘われがちだし」
 そうは言うが、君も人のことは言えないだろうと反論したくなる。
「ほ、ほーん?」
……ここまで言っても伝わらないか……
「何の話?」
「アリスが超がつくほど鈍感だって話。あぁ、誰にでもニコニコするなって言うあれは聞けないから。そのもやもやの原因がわかったら教えてくれよ」
 そう言って立ち上がると「風呂借りる」と言ってリビングから出ていった。
 扉の閉まる音を聞いて、無意識に握りこんでいた手を開いてテーブルに突っ伏す。
 
「どんな顔して、待てばええんや……?」

 もやもやして、知りたくなくて、近くにいると緊張して。
 その理由は――