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camellia57
2026-02-01 18:27:30
67473文字
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火アリSSメーカーまとめ
2024~2025年に書いたSSのまとめ。全年齢のみ。ごちゃまぜ
話は独立していてつながっていません。基本的にはページが後ろの方が古いです
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「ひーくん」
「あ〜ちゃん」
ほどほどに混んでいる電車内、私たちの前に立っている若いカップルの会話が聞こえてくる。制服を着ているので
――
どこの学校かはわからないが
――
おそらく高校生だろう。自分と離れた世代の年齢を正しく判別するのは難しい。それだけ自分が年を取ったのだと実感する。教鞭をとっている火村なら高校生と大学生の判別は容易いのかもしれないが。
片手は吊り革、もう片方でお互いの手を繋いでいる。彼氏の方が彼女の高さに合わせて耳を寄せている姿のなんと微笑ましいことだろう。もうすぐ付き合って何ヶ月かの記念日だそうだ。ここは公共の場だよ、と眉を顰めてしまうような戯れ合いでもない、記念日が毎月やってくるそのやり取りに顔を綻ばせていると隣の火村に肘でつつかれた。抗議しようと顔を向けると『あまりじろじろ見るな』と目で伝えてくる。
――
確かに火村の指摘は一理ある。
デビュー以来お世話になっている珀友社の会議室で担当の片桐と次回作の打合せを終え、東京駅に戻り、火村と合流した。火村もフィールドワーク関係で東京に行く用事があると言うので日程を合わせて、たまには名所でも見て回るかと泊まりで出掛けることになったのだ。お互いの用事は今日済ませたので明日は観光三昧の予定である。少し来ないだけでも新しいスポットがいくつも増えては消えているのだからこの街の変化のスピードについて行ける気がしない。
泊まる場所は私に任されたのだが、どこも高い上に中々空きがなく参ってしまった。結局以前泊まったことのある新宿のシティホテルのツインの部屋を予約した。新宿までなら中央線の方が早いのだが、なんとなく時間を掛けたくなって山手線で移動している。車窓からの風景も、一駅ごとの乗降の様子も眺めていて飽きないし、車内の三連モニターの広告は見応えがあって、電車に乗っているだけでも入ってくる情報の差を感じてしまう。とはいえ、住みたいとは思わないのだが
……
。
新宿駅を出るとどこからか聞こえてくる猫の鳴き声に火村がぴくりと反応して、視線を彷徨わせているので「あそこや」と教えてやった。新宿東口の猫。「へぇ
……
」と言いながら興味深そうに眺めている。この三毛猫を見せたかったのでまずは成功と言える。
ホテルのチェックインを済ませて、鍵を受け取る。偶然だろうが前回と同じ部屋だった。火村は覚えているのかわからないし、覚えていなくても構わないが。
エレベーターの中で「ツインにしたんだな」と言われた。
「シングルやとフロアが分かれてしまうしな」
「なるほど」なにがやねん。
火村の表情を横目で見ても考えていることが読めない。
広めの部屋にセミダブルベッドが二つ。お互いに荷物を置いて、上着をハンガーに掛ける。私がケトルで湯を沸かしている間に早速火村はキャメルに火をつけていた。
「ベッドに灰を落とさんようにな」
「わかってる」
「それにしてもどこもかしこも禁煙で、路上喫煙は罰金っちゅうのも愛煙家にはつらいなあ。しかも関西よりこっちの方が千円高いみたいやで」
「へぇ」どうでもよさそうな相槌をうたれた。
ふと電車内で見たカップルの会話が思い出されて、隣に座り肩にもたれて「ひーくん」と呼ぶと火村が盛大に噎せた。
「おまえ、なぁ
……
」
「ひーくん、もうすぐ付き合って
…………
十五ヶ月
……
? やで」
「十六ヶ月」
「そうそう、そうやったわ。とっさやと数え間違ってしまうな」
「なんのつもりだよ」
吸い始めたばかりのキャメルを灰皿に押しつけて怪訝な顔で私を見てくる。
「なんのって、たまには君に甘えてみようかと
……
?」
「甘え、ねぇ
……
。てっきりあのカップルが羨ましかったのかと思ったよ」
「羨ましいって、なんで?」
「なんでって」
微笑ましいとは思ったが羨ましくなる要素があっただろうか?
「あ、電車内で手を繋いでたから? それはまあ人目を気にせんとできるんは羨ましいかもなあ」
「いや、そうじゃなくて」
言い淀む火村。なにがそんなに言いにくいのだろう。
「制服が
……
」
「制服? 俺と君が今更制服着て出掛けたら色々まずいやろ。第一もう持ってないで」
はぁ
……
と脱力されてしまった。ますますわけがわからない。
「なんでそうなるんだよ
……
。今更着たいとも着て欲しいとも思わねぇよ
……
」
「せやったら、なんで?」
「いや
……
。なんでもないよ。忘れてくれ。それで、甘えてくれるんだっけ?」
「あ、うん、せやね、たまには、かわいく振る舞おうかと
……
」
私の手を取って指を絡めてきた火村が微笑む。え、なんや?
「そんなことしなくてもアリスはかわいい」
は?
「君、大丈夫か? 環境が変わると開放的になるタイプやったん? それとも会う前にお酒でも飲んだ?」
照れくさくてからかうように言えば、冗談だよとでも返してくれると思ったのだが。
「そんなことしなくてもかわいいし、かわいく振る舞おうとしてるアリスもかわいい」
返り討ちに遭ってしまった。
「も、もうええ」
恥ずかしくなってきて俯くと、くくっと笑う声が聞こえる。
「どれだけ経っても慣れないんだな。本当にかわいい」
「も、もう、知らん!」
「つれないこと言うなよ、アリス」
火村に背を向けると、今度は後ろから抱き締められてしまって悲鳴が出そうになる。
電車に乗ったときからいつもより口数が少なかったのは疲れているからだと思ったのに違ったのか? 単にニコチン切れで苛ついていたのか? なんで急に元気になっているのだ? さっぱりわからなくて頭がついていかない。そんな私のことなどお構い無しに火村の手が侵入してくる。
「え、ちょ、ちょっと、君」
「ん?」
「ん? やなくて」
「好きなだけ甘えていいよ」
そういうことではなくて!!
反論を口にする前に飲み込まれてあとはもうそのまま。
この夜はもう勘弁してくれと懇願してしまうくらい『かわいい』の嵐だった。
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