camellia57
2026-02-01 18:27:30
67473文字
Public
 

火アリSSメーカーまとめ

2024~2025年に書いたSSのまとめ。全年齢のみ。ごちゃまぜ
話は独立していてつながっていません。基本的にはページが後ろの方が古いです


「うわっ」
 立ち上がった拍子に足を縺れさせて倒れ込むアリスを支えようとしたけれど勢いが相殺できずに押し倒されるような格好になってしまった。

「すまん!すぐどくから!」そんな言葉が出てきてさっと起き上がるかと思ったのに、お互いの視線が絡まったまま動けずにいた。アリスが小さく俺の名を呼んだ次の瞬間、強く抱き締めてしまった。やってしまったと思ったけれど止められなかった。同じ欲をアリスの目の奥に感じたから。

「君のことが好きや。ずっと前から」
 潤んだ瞳、首まで赤く染めて腕の中でアリスが告げる。
 長年の片思いが終わる瞬間はドラマチックなものじゃなくてこんな風に事故みたいに起こるものなのかもしれない。「俺も」と返すと締まりの無い顔でアリスが笑った。

 それが3週間前のこと。晴れて両想いになれて浮かれていたのは俺だけだったらしい。恋人になったからといってアリスが頻繁に連絡してくるようなタイプではないとは思っていたけれどまったく変化がない。連絡の頻度と愛情には相関関係はないけれど、会っているときだって……手を繋ごうとしたら「え?なんで?」と不思議そうな顔をされた。夜とは言え外でそんなことをしようとした俺が悪かったのかもしれない。それなら所謂おうちデートならと思ったのだが……結果はお察しの通りだ。
 
 それなのに……

「君、恋人できたんやって?おめでとう。はよ言ってくれればええのに」
 無理やり作った笑顔でアリスにそう言われてしまった。

「近いうちに会える?そっちに行ってええ?」そう連絡が来てまた浮足立っていたのに、地面にめり込むくらい落とされてしまった。

 どの時点で認識の違いが生まれたのかわからない。俺とアリスのこの3週間でやり直すボタンを何度押せばそこに戻れるんだ?

「朝井さんから聞いたんや。たまたま君に会うたときにえらい機嫌よさそうやったって。そうやったっけ?って思うたけど。火村先生に恋人ができたみたいやね、って教えてくれた」
 確かにまだ浮かれ気分が継続していた時期に書店で偶然会ってそんなことを言ったような記憶がある。

「なんで俺に言ってくれんかったん?人伝てやなくて、直接聞きたかった。」
「それは」
「俺の気持ちに気付いてたから?」
「アリス」
「こんな形で失恋したくなかったわ……

 どうしてこんなに拗れてしまったのかはわからないけれど、ああ、もう!
 下宿の部屋に入ってきて言いたいことだけ言って帰ろうとするアリスの腕を掴んで畳の上に押し倒す。
 睨みながら「どけ」と言ってくるが無視して、逃げられないように顔の横に手を着く。
「3週間、アリスにこうされて好きだって言われたんだけど。俺もって返したんだけど。俺の恋人はアリスなんだけど」
 ぽかんという顔ってこういう顔なんだろうな。口を開けたまま固まっている。

…………え?え、えぇ?」
「まったく、なにも、覚えてないのか?」
……ない」
 深く長いため息が出る。
「し、しゃーないやろ!あんときは酔ってたんやし!それに」
「それに?」
……そんな、夢みたいなこと、起こると思われへんし……
「夢じゃないよ。アリス」
「ほんまに?ほんまにほんま?」
 アリスが恐る恐る俺の背中に手を回してくる。
「アリスのことが好きだよ、ずっと前から」
 ボロボロ涙を零しながら「俺も」とアリスが返してくれる。やっぱりドラマチックにはならなかったけれど、赤い目をしたアリスがまた締まりの無い顔で笑った。