零ミリ
2026-04-26 18:26:40
39322文字
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輝石と筆跡2026毎日ワンライ

がんばります

命日

 橙の夕日が差し込む墓地を砂利を踏み締めて、一輪だけ菊の花を携えて歩く。これでも都内では立地の良い高級墓地なのだが、盆でもない平日の夕方の墓地は自分以外に人はいなかった。
 砂利を鳴らして目的の墓石の前で足を止める。大きな墓石に「宇津木家之墓」と大きく掘られている。大阪出身の祖父が東京に出てきて、自分が生まれる前に祖母が亡くなった際にこの墓地に定めたため、石も彫刻もまだそれほど何月を経ていない。墓石は綺麗に掃除され、生き生きとした生花が飾られている。数時間前に家族が来たからだろう。
 今日は祖父・宇津木藍桐の命日だった。至高天研究所の自分にも実家から墓参りの案内が届いていた。自分が家の用事に案内されるなんて数年前は想像していなかったが、父がアカシアの民・至高天研究所にまだ期待しているのか、兄が自分に対して思うことがあるのかどちらなのかは分からなかったが、祖父の法事や墓参りは今まで欠かさず案内が届いていた。だが、今年は断り、自分一人で墓の前に立っていた。どうしても一人で祖父と向き合いたかったからだ。
(お爺様、あなたは何を考えていたのですか)
 去年のちょうど今頃、原田実の祖父原田无諦を調べる一環で祖父の倉を調べた。それは、原田さんを驚かせてやろうというちょっとしたイタズラ心からだった。しかし、そこで見つけた古い記録や手紙からは祖父・宇津木藍桐と原田无諦が何か人知を超えた計画を企んでいた痕跡が読み取れた。そして、原田无諦の娘であり原田実の叔母の織江真理の警告。
 自分と原田実の間にどのような因縁があるのかいまだ完全には理解できなかったが、祖父たちが行ったいたことが発端になっているのだろうということはおおよそ理解できた。
(やっと宇津木家から離れて出会えた人であるのに)
 多くの人が子供時代そうであるように、数年前までの自分は家と学校にしか世界がなく、ほとんどが家の中の出来事だった。偶然の事故から出会った創と、原田実を初めとするアカシアの民で出会った人々は「宇津木家の宇津木徳幸」ではなく、ただの「宇津木徳幸」として接してくれた。しかし、それさえも祖父の始めた因縁の結果だったのだろうか。
(お爺様、俺と創が、俺と原田さんが出会うことを貴方が望んでいたのですか)
 死人は答えない。死人がどう望んでいようと、自分の出会いを信じれば良いはずなのだが、織江真理の言葉が脳をよぎる。警告を無視して俺と原田実が近くに居続けたら? その結果、創と至高天研究所に不幸がもたらされたら? 自分は何を恨めばいいのだろう。
 持っていた一輪の菊を花瓶に差し入れ、手を合わせる。もう二度とこの墓の前には来ないだろう。自分がどうするのが正解なのか分からないが、宇津木家からは距離を取るべきだ。父からも母からも兄からも妹からも。そして祖父を思い出すものも。最後にこうして手を合わせるのは、家族としての情だ。
 さようなら、おじいちゃん。