零ミリ
2026-04-26 18:26:40
39322文字
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輝石と筆跡2026毎日ワンライ

がんばります

結婚

「本、かなり増えたねえ!」
 无諦の書斎に入った藍桐はぎっしり詰まった書棚と溢れて床に積まれている本の山に感心したように声を上げる。无諦は障子を後ろ手に閉め、藍桐の横に立つ。
「そうか、君がこの家の書斎に入ったのはもしかして飾が小学校に入る前か」
 この日、藍桐は无諦の家に訪れていた。平日の昼であったが、无諦の妻は故郷の知人が東京に来たため案内に出かけ、无諦の息子二人は学校だ。当然、藍桐はアイスクラー社長業があったが、無理矢理に時間を作って馳せ参じた。
 というのも、无諦の家で二人きりで過ごす機会はほとんどないからだ。お互い独身であった時は毎週の休みの度に会っていたが、結婚してからはそれぞれ引っ越し、それぞれの仕事が忙しくなったのも相まって会う機会が減少していた。无諦の家に行ったとしても家族がいるため、二人きりというのは无諦に子供ができてからは初めてだった。
「そうだね! 前に書斎に入った時は飾君の入学祝いを持ってきたからね! あの時も独身の時の家よりも増えたと思ったけれど!」
「随分時間が経ったな……
 お互い何かを待っているかのように沈黙する。无諦が黙ったまま、藍桐の腰に手を回す。藍桐はくすぐったそうに笑い、横の无諦を見上げる。
「もう?」
「午後になったら子供たちが帰ってくる」
 藍桐は无諦の手をとり、後ろにゆっくりと倒れ込み、足を伸ばして座る藍桐に无諦が迫る姿勢になる。
「手紙をもらって驚いたよ! てっきり家族と暮らす家ではしたくないのかと」
「単純に機会がなかっただけだ」
「ふふ、ひどい男だね、无諦」
 藍桐が床についている无諦の左手の薬指を撫でる。
「断らない君も大概だ。ひどいと思うのなら、君が結婚する時に清算を言い出せば良かっただろう」
「僕から言えるわけないだろう!」
 无諦と藍桐はそれぞれ結婚してからも関係が続いていた。无諦の家で会うことはできなかったものの、一年に一回程度であれば二人きりで旅行ができた。その貴重な機会に恋人として睦み合っていた。
 无諦は喉の奥でくつくつ笑いながら服の上から藍桐の身体を撫でる。腰回りを何度も撫でながら无諦が言った。
「少し太ったか?」
「もう中年だからね! それと、毎日夏梅がたくさん食べさせてくれるんだ!」
「幸せ太りか」
「ただでさえ山盛りにしてくれるのに、僕の好きなおかずは自分の分から更に分けてくれるんだよ!」
「愛されているな」
「本当にね!」
 藍桐は无諦の手を自身の胸元へ導き、无諦の手で暴かせる。
「そんな愛されている男を奪って、さぞ楽しいだろう!」
「ああ、独身の頃にない背徳感だ」
「あっはっは! 本当に日の本一の破廉恥漢だね!」
 藍桐は弾けるように笑った。笑いを出し切ると瞬間、目に欲を滲ませ无諦の指先をちろちろと舐める。
「いいよ、午前中の間は僕は君の情人だ。慈しむのでも、嬲るのでも、君の思いのままに」
 二人はどちらからともなく唇を重ね、床に倒れ込む。无諦は藍桐の服を暴き、指先で素肌を味わう。舌を絡め合う刺激と身体の愛撫に、藍桐は快楽を逃すように脚を忙しなく動かす。
 无諦は唇を離し、一番近いところで藍桐を見つめる。視線を合わせたまま、藍桐の左手の薬指の指輪を掴む。
「藍桐、私以外と結婚したことを後悔しているか」
「後悔? まさか! 夏梅は愛おしいし、子供たちは可愛らしい! 最高の家庭を持って後悔する要素なんてないよ!」
「不倫することになってもか」
「形の上では不倫だけれどね! でも僕は君のものなんだ! 君のことは家族よりも優先すべきだろう!」
「はは、君もやはりひどいな」
 无諦は藍桐の左指から指輪を引き抜く。自身のものも外し、二つの指輪を文机の上に置いた。妻との繋がりを隠した二人は、愚かな恋人になった。