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零ミリ
2026-04-26 18:26:40
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輝石と筆跡2026毎日ワンライ
がんばります
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旅
ガタンガタン、と車輪で進む車両の揺れが耳と下半身に伝わってくる。まったくもって静寂ではないが、列車というのは不思議と読書が捗る。この旅行のために持ってきた新刊の小説の一冊目は既に半分も進んでいる。
自分以外の人間が創造した世界に浸っていると、自分の目の前にいる人間が動いた気配がした。活字から目を離すと、目の前に座っている藍桐が目を覚ましてキョロキョロと車内と窓の外を交互に見ている。
「今どの辺?」
「列車か? 小説か?」
「列車の方! 无諦が読んでいる本は僕は知らないからなあ!」
「まだ静岡県だ。先ほど三島駅を通過した」
「ああ、なんだ、まだまだだね!」
早朝に新橋から列車に乗り込んで藍桐はすぐに眠りこけてしまった。昨日も夜遅くまで会食に出ていたらしい。
我々は今、大阪へ向かっている。藍桐が大阪へ商談に招かれており、それなら君もどうだ、と着いてきたのだ。留学から帰国して以来、関東近辺の旅行は藍桐としてきたが、関西のような遠出は初めてだった。
旅、というものは好きだ。人間は狭い世界の中でしか思考ができない。旅はその狭い自分の世界を否応なく広げてくれる。旅が終わってまた狭い世界へと戻るとしても、経験は無駄にならない。広がった自分の世界は創造する世界に確実に反映される。
そして、藍桐と出会って初めて知ったことだが、道連れがいると旅はより豊かになる。得られる知見だけでなく、二人の思い出が蓄積することで絆を強める。これは、誰が道連れであっても起こることではない。真に経験を分け合える人間でなければならない。
ふと、思いついたことがあった。
「藍桐、私たちはまだそれほど長くない関係の間にたくさん旅をしてきたな。留学に始まり、関東近辺の名所、温泉」
「うん!」
「その経験から、私は旅の道連れという存在がどんなに重要か初めて知った。旅がもたらす知見と経験を何倍にもしてくれる」
「えっ! 无諦、もしかして僕のこと褒めてる!?」
「褒めてるし、感謝している。それで『神曲』について思った。やはり、地獄、煉獄、天国と巡るのは二人ではなければならなかったのだと」
「地獄と煉獄ではウェルギリウスが、天国ではベアトリーチェがダンテを導くね!」
「ああ。文学上の効果としても冒険譚の装置としても一人ではなく二人いることには重要な意味がある」
「では、僕たちが二人でいる意味は?」
藍桐がニコニコとして尋ねる。その問いの答えはまだなかった。
「その意味はまだ定まっていない。だから、藍桐、意味を知るためにもこれからもたくさん二人で旅をしよう」
「うん! ではまずは今回の大阪だね! ああ、日本の道府県を全て訪ねてみるのもいいね!」
限られた時間でどれだけ旅ができるのか。だが、我々の前には道が開けているのだ。
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