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零ミリ
2026-04-26 18:26:40
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輝石と筆跡2026毎日ワンライ
がんばります
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万年筆
前方に自分の背中があった。これはきっと夢なのだろう。私に背を向けている自分は何事か叫んでいる。誰かを罵っているということは分かるが言葉を認識できない。私の先に誰か人間がいるらしい。言葉の意味が認識できない怒声の応酬がしばらく続き、自分が向こうの人間の胸ぐら押し倒した。藍桐だ。押し倒された藍桐は驚いて目を見開いている。
その瞬間、視点が代わり、怒りに染まった自分の顔が目の前にある。藍桐の視点になったらしい。
「ふざけるな!」
怒号が明瞭に聞こえ、自分が腕を振り上げる。手には天鵞絨の万年筆が握られており、筆先の金属が鋭く反射する。筆先が私の心臓を目がけて振り下ろされーー。
ハッと目を覚ました。右手を見ると手のひらが白くなるくらい強く拳を握りしめていた。手を開き、万年筆を握っておらず空であることを確認する。
隣には藍桐が寝ている。とても幸せそうな寝顔で、若干の悪夢の後では心が和む。藍桐の額に軽い口付けをして布団から起き上がる。
枕元にある灯油式のランタンに明かりを灯して、ランタンを持って寝室から書斎に移動する。文机にランタンを置き、書棚の洋書を並べている一角に向き合い、一冊の本を手に取る。本を開くと、中はくり抜かれており本型の小物入れだ。中の空洞には小さな鍵が収められている。鍵を取り出し、今度は一番上の棚に置いてある宝石箱を取る。ヨーロッパから持ち帰ったもので、箱そのものもかなりの値打ちがある。先ほどの小さな鍵を宝石箱の鍵穴に差し込み回すと、かちりと小さな音がする。宝石箱の上蓋を開けると、中には宝石ではなく、天鵞絨色の鉱石をペン軸とする万年筆が収まらねていた。先ほどの夢に出てきた万年筆だ。
本物のペン先も鋭く、これで人体を刺せばそれなりの傷になるだろう。だが、この万年筆は物理的な殺傷能力以上のものを持っている。
「无諦
……
? どうしたの」
万年筆を眺めていると藍桐が声をかけてきた。
「起こしてしまったのか」
「うん、目が覚めたら无諦がいなかったから。深夜にどうしたの」
どうしたものか、と思った。夢の内容をそのまま伝えると不必要な心配をかけてしまうと思った。少しぼやかして伝えることにした。
「この万年筆で人を刺す夢を見た。この万年筆が無事か気になってな」
「无諦がこの万年筆で人を! そんなことするわけないだろう!」
「私もそう思う。だが、実際にこの万年筆を使えば傷を負わせること以上のことができる。そんなことがないように、という戒めだ」
「それは確かに、そう、だけど」
藍桐にこの万年筆を向けることがあるだろうか。人の気持ちというものに確かなものはない。が、それはないだろう。しかし、他の人間に対しては確証がない。
「藍桐、私がもしこの万年筆で人を傷つけることがあっても君は私を見限らないか」
「それは、事情によるよ。もし无諦が不当に人を傷つけるのであれば、僕は本気で君を諌めるよ!」
いかにも藍桐らしい言葉で安心した。
「なら、私がこの万年筆を持ち続ける資格はあるのだろうな」
万年筆と箱と鍵を元に戻して、藍桐の手を握る。
「もう一度寝よう。悪い夢など忘れるような甘い夢を君の隣で見せてくれ」
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