零ミリ
2026-04-26 18:26:40
39322文字
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輝石と筆跡2026毎日ワンライ

がんばります

義理チョコくらい気にすることない

「うわ、すごい量!」
 部屋に帰ると珍しく先に帰っていた藍桐が出迎えるなり、声を上げた。驚きの理由は私の持っている二つの紙袋だ。今日はバレンタインデー、大学で色々な人から大量にチョコレートを貰ってしまった。
「研究室で貰ったには多すぎない?」
「多分、すれ違ったことがあるだけの人からも貰っている……
「いやあ今年も凄いね!」
 藍桐は私から紙袋を受け取ると、リビングの机の上にどさりと置く。
「ご飯終わったら仕分けしようか!」
 何事もなかったように夕食の用意に戻る藍桐の手首を掴む。
「何か、ないのか」
「え? 何かって?」
「恋人がバレンタインデーのチョコレートを大量に貰ってきたのだが」
「そりゃあ无諦はモテるからね!」
「何も思わないのか」
「今年も大変だなあ、としか思わないよ!」
 去年までは同居人であったが、今年は恋人になった。藍桐の反応が何か変わるのではないかと思ったのだが、去年までと全く変わらなかった。
手を離してぶすっとした私を見て藍桐はケラケラと笑う。
「もしかして嫉妬してほしかったのかい!? 无諦も意外と純情だね!」
「悪いか」
「いやあ、意外だなって! でも僕は无諦がモテるのは当然だと思っているし、有象無象が寄ってきたくらいで僕たちの関係が揺らぐとは全く思っていないからね!」
「それはそうだが。ところで君は貰っていないのか」
「えっと、四個貰ったかな! 研究室で二個、バイト先で二個! でも今更君が義理チョコくらい気にすることないだろう?」
「どこにある?」
「冷蔵庫だけど……
「私が食べる。君は食べるな」
「无諦……!」
 藍桐がキャーっと両頬を手で包んでぐらぐらと揺れる。
「无諦がそんなに嫉妬するなんて!」
……恋人になって初めてのバレンタインデーに思ったより浮かれていたらしい」
「でも僕たちのバレンタインデーとしては次の休みにチョコレートのスイーツビュッフェに行くでしょ?」
「それとこれは別、ということらしい。自分でもさっきまで気づかなかったが」
 どちらか片方がチョコレートを贈るのは自分たちの関係に合わない、ということでバレンタインデーの過ごし方としてチョコレートのスイーツビュッフェに行くことにした。それはそれでチョコレートもデートも楽しみだったが、藍桐に好意が寄せられていることを直に見るのはやはり心が騒がしくなる。
 藍桐は一歩私に寄り、背中に腕を回して身を寄せる。
「安心して! 本命チョコだろうと義理チョコだろうとただの知り合いだよ! 僕は无諦しか目に入らないんだから!」
「うん」
「今日の夜は无諦の好きにしていいからね!」
 藍桐は背伸びして私に軽く触れるだけのキスをする。藍桐はするりと私の横を通ってコンロの方へ戻っていく。机の上の紙袋からは一個、高級そうな包装の箱が飛び出ていた。包装を解き、いかにも映えそうな華やかなチョコレートを一粒つまむ。チョコレートはやはり甘かったが、先ほど触れただけのキスの方がずっと甘い、と思った。