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零ミリ
2026-04-26 18:26:40
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輝石と筆跡2026毎日ワンライ
がんばります
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ふたり歩くこの道
「そうだな、そうすると先ほどの記述の意味は
……
」
夜通し、『神曲』と辞書を睨んで議論していた。その最中、无諦が言葉を途切れさせふと顔を上げた。
「どうかしたかい、无諦?」
「いや、夜明けだな、と」
无諦の座っている側からは窓が見えるが、僕の座っている位置は背中側に窓がある。振り向いて窓の外を見ると、建造物のためにでこぼこな地平線から夜の闇が明けていく途中で、夜と朝の濃淡が広がっていた。
「暁だね」
「ああ」
无諦の方に視線を戻すと、目を細めて夜明けの空を眺めていた。きっと眩しさからだけではないだろう。僕の視線に気づいた无諦が僕を見つめて名前を呼ぶ。
「藍桐」
「なんだい」
「私の旅の道連れになったことを後悔しないか」
思わぬ无諦の言葉に思わず立ち上がって声を上げる。
「なんだってそんなことを疑問に思うんだい⁉︎ 僕は君と同じ旅路を歩めることを僕の人生の最大の幸福だと思っているよ!」
「今はな」
无諦は立ち上がり、窓際に近づく。窓ガラスに触れ、地平線の彼方の先の何かを睨む。
「今のところ私たちの旅は順調だ。『神曲』の研究は新しい知見をもたらし、テオドールの体質の実験も今のところ大きな問題はない。だが一年先、十年先も順風満帆という保証はない」
「无諦」
窓際の无諦に近づき、手をとって无諦を振り向かせる。
「いつも自信に溢れている君らしくないじゃないか」
「私にだって気弱になることはあるよ。いや、君といたから気弱さが生まれた」
「なんだって
……
?」
无諦は弱々しく微笑んだ。それは、いつもの完成された知性溢れる美丈夫の笑みではなく、触れれば折れそうな儚い笑みだった。
「君と過ごしていると毎日が幸せなんだ。幸せすぎて不安になる。これが私の人生の最高潮ではないかと。これ以上君を幸せにすることができないのではないかと」
「无諦
……
」
その気持ちは分かる。无諦と語り、幸せな気持ちでまぶたを閉じると、いつかこの幸せを失ってしまうのではないかと。だが、そのような不安は僕たちには相応しくない!
「无諦! 不安に襲われる気持ちは分かるよ! けれど、僕は原田无諦を信じている! きっと君はダンテを超えられる!」
「藍桐
……
」
まだ儚さを滲ませる无諦の手を強く握り、声を張る。
「僕たちの旅路の先を信じているし、僕たちがふたり歩くこの道そのものだって、僕たちには特別な意味があるんだ! 歩んだ道のりは消えない! 歩んだ道のりだけ、僕たちの物語は紡がれていく! そうだろう!」
「
…………
藍桐、そうだな」
无諦はもう一度笑った。先ほどの笑みが夜明けの透明な笑みであれば、今度の笑みは夏の快晴の昼間のような光あふれる笑みだった。
「私たちはこの道の先できっと至高天の先へと辿り着く。かの詩人たちの旅を超えるんだ」
「无諦! やっぱり君はそうでなくっちゃ!」
「うん。
……
藍桐、一つ頼んでいいか」
无諦が僕の手を握り返して、そっと言う。
「なんだって承るよ!」
「君といると私はたまに弱くなるから。そういう時は今みたいに激励してほしい」
「当然さ! 僕たちの道を歩むために何度だって君の背中を押そう!」
无諦の背中をばん、と叩く。中々に良い音がした。気持ちの良い音に二人でしばらく笑っていた。
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