零ミリ
2026-04-26 18:26:40
39322文字
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輝石と筆跡2026毎日ワンライ

がんばります

いとしいあまりに、いとしい

 藍桐の濃紺色の波打つ髪をくしゃくしゃと撫でると藍桐が目尻を下げる。
「もう、ぐしゃぐしゃになっちゃうよ!」
「ここは布団の上だし、それに先ほどまで散々乱れる行為をしていただろう」
「あはは! それはそうだ!」
 藍桐は私の指摘など了承して軽く返していたのだろう、けらけらと笑う。裸で身を寄せ合って笑い合っていると、この世に不幸などないかのような錯覚を覚える。実際はぬるま湯に満たされた狭い箱に漂っているだけなのだけれど。
「ねえ无諦」
 藍桐がにやにやとしながら私の胸の中心をつつ、と撫でる。潔癖で秘所を晒すのも涙目になるくらい抵抗があった藍桐も、今はこんな艶やかな情人の仕草をするようになった。潔癖な彼が変わってしまったことへの寂しさが三で、彼を自分で染められたことへの嬉しさが七くらい。普段の声音で返すつもりが、あんこのような甘さの返答が自分の喉から転がり出た。
「なんだ、藍桐」
「楽しいねえ。幸せだねえ」
 自分があんこなら藍桐はチヨコレートのような甘さで幸せを口ずさむ。私も同じ気持ちだ。身体を交わらすことも、夜通しこの世界の真理について論ずることも、至高天の先を目指してそれぞれの役割を遂行することも、藍桐とこの世界で踊ることは全て楽しい。藍桐と出会ってから私は間違いなく幸せだった。
「ああ、私もだよ」
「僕、无諦と出会ったことが人生で一番の幸運だったと信じているよ!」
 全てが希望に満ち溢れている子供のような笑顔を藍桐は見せた。その笑顔にどうしようもないもはや暴力のような愛おしさを感じた。いとしいあまりに、いとしい。藍桐の身体に覆い被さり、口付ける。
「んっ、」
 拒むことなど知らないように、藍桐は私の口付けを受け入れ、舌を絡め返す。どちらの唾液とも分からない液が口の端から垂れ、藍桐の顎を濡らす。長い接吻の後、藍桐の額に口付け、にこりと笑う。
「私はな、君との出会いを幸運とは思っていないよ」
「えっ!」
「私と君の出会いは予め定まっていたに決まっている。アカシック・レコードに刻まれているんだ。だが、決まっていたとしてもこの幸せは変わらない」
 片手を藍桐の手のひらに重ね、指と指を絡め合う。先ほどまでの行為で指の先端まで温まっており、藍桐の体温を感じる。
「出会い自体は定まっていたとしても、この体温はこうやって身体を重ねなければ我々は知覚することができない。幸運があるとすれば、気持ちが通じ合い触れ合い続けられることだ」
「无諦……!」
 藍桐はもう片方の手で私の頬を撫でる。
「そうだね! 无諦の言う通りだ! こうして触れ合うことことが幸せそのものなんだ!」
 藍桐が私の首に腕を回し、二人の身体を布団の上に沈み込ませる。全身で二人触れ合う、なんて幸せなんだろうか!