Day6:重ねる
竜王城で用事を済ませたウィリアムが別れの挨拶を告げて、ルシウスの執務室を後にする。ウィリアムが出ていった扉を閉じ、カイルが主であるルシウスを振り返ったとき、ルシウスは腑に落ちない、というような表情で座っていた。たとえるなら、りんご味の飴を口に入れたはずがオレンジの味がしたような、そんな風にわずかに眉を寄せ、ウィリアムが出ていった扉をじっと見つめている。
「ルシウス様、どうかされたのですか?」
カイルがそう声をかけると、ルシウスはカイルを見てわずかに口ごもった。その表情を見て、話したくない内容というよりはおそらく説明が難しい内容なのだと予想したカイルは、そのまま主人が口を開くのを待った。ルシウスは適切な言葉を探すように、慎重に問いかける。
「いや、なんというか
……カイルはさ、ウィリーと話すときに何か
……違和感を覚えたりしない? 他の人と話すのとは違う感じ」
「
……特には。ウィリアムくんには親しくしていただいておりますが、違和感と呼べるようなものは何も」
カイルとウィリアムは城の外で二人で食事をする仲だ。友人同士としてそれなりに話をする機会もある。だがカイルはこれまで、ルシウスが言うような違和感をウィリアムに対して感じたことはなかった。ごく自然に会話をしているからこそ、二人でいることがストレスにならずに今の関係を続けてきているのだ。
カイルが目線だけで話の続きを促すと、ルシウスは迷いながらも説明を再開した。
「
……俺が前に、ドラゴンの気持ちや言葉がなんとなく分かるって話をしたの、覚えてる?」
「ええ。私がルシウス様の側近に起用されてすぐの頃にお話しくださいました」
「そう。たぶんそれが関係してるんだと思うんだけど
……ウィリーを見てるとき、別の何かの存在が重なって見えることがあって
……」
「
……それは
……ウィリアムくんの姿に別人の虚像を重ねて見ている、ということでしょうか」
「そう聞かれてみると、ちょっと違うな。姿はあくまでもウィリーだけど、気配がもう一つある。それも人間の気配じゃなくてドラゴンのものだ」
そこまで説明し終えると、ルシウスは一人で腑に落ちた様子で満足げに椅子に座り直した。今まで正体を掴めずにいたものを言葉にしたことで、その輪郭が浮かび上がってきた。だがカイルはまだ納得しかねていた。
「ルシウス様。ウィリアムくんはごく普通の人間のはずでは? なぜドラゴンの気配を纏っているのでしょうか」
「
……そう、だよね?」
先ほど手が届きそうだった何かの輪郭はあっさりルシウスの指の隙間から抜けて逃げ出していった。再び腑に落ちない顔をして頬杖をついた主人の前に立ち、カイルは呆れたようにため息をついて一言「仕事してください」と言って書類の山を積み上げた。
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