Day9:ぷかぷか
黄龍の
国の周りを取り囲む高い壁。その上から見上げた本日の青い空には、ちぎった綿あめみたいな白い雲が浮かんでいる。穏やかな風に暖かな陽の光。良い天気だ。
「チンロンさーん。こんにちは」
下から自分を呼ぶ声が聞こえて、チンロンは壁の上から顔を覗かせた。下には、壁の内側で暮らしている小さな女の子が立っていて、頭上のチンロンに気づいてもらおうと一生懸命に背伸びして大きな声を出している。
チンロンはふわりと浮き上がった。浮遊しながらゆっくりと地面に向かって高度を下げていき、女の子の手前に音もなく着地した。
女の子は小さな手をパチパチと鳴らしながら、チンロンの背後にある太い尻尾を目を輝かせて見つめていた。
「チンロンさんは、そんなに大きなしっぽがあって重そうなのに、ドシンってならずにおりられるんですね」
「おれは空を飛べるから。それで、おれに何か用事かな?」
「そうなんです! 今日はお空に雲がぷかぷかうかんでるので、チンロンさんにとってきてもらいたいんです」
女の子の可愛らしいお願いに、チンロンは意表をつかれてしまった。残念ながら雲は取ってこられるものではないのだが、子供の頃は誰しも雲を触ることや食べることを可能なこととして空想するものだ。そのうち悲しい現実を知って大人の階段を一段登るわけだが。
「えっと
……バイフーさんに頼んでみたら」
「バイフーさんは、雲があるところまではとべないって言ってました」
「ああ
……」
「チンロンさんはりゅうなので、お空のたかいところまでとんでいけると思って」
「
……雲はすごく高いところにあるから、おれも届かないよ」
「そうなんですか
……」
チンロンの返答に女の子は残念そうな顔をして去っていった。それを見送るチンロンもまた、表情からは分かりづらいが罪悪感に苛まれていた。雲に夢を抱く少女に現実を突きつけない選択をした代わりに、嘘をついてしまったからだ。
(おれ、本当は雲より高く飛べるけど
……)
しかし雲の高さまで飛んだところで、女の子の期待するような形で雲を持って帰ってくることはできないわけで。この嘘がバレるよりも前に、あの女の子が大人の階段を登ってくれることを祈るばかりだ。
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