Day10:突風
突然の強風に煽られて、かぶっていた帽子があっけなく宙に舞った。慌てて伸ばした腕も虚しく空を切り、飛ばされた帽子は高い木の上のほうの枝に引っかかった。
バルコニーで帽子を飛ばされたフィリベルトは呆然として、手を伸ばしても届かない己の帽子を見つめていた。極度の恥ずかしがり屋であるフィリベルトにとって、帽子は他人の視線から自分を守るための鎧なのだ。目が隠れるほどに伸ばした分厚い前髪の壁だけでは安心できない。それに加えてつばの大きい帽子をかぶることで、フィリベルトはようやく部屋から出ることができる。しかし今、その大切な鎧は木の枝に引っかかって、ときどき風を受けて悲しげに揺れている。
(ど、どうしよう
……!? 木に登って取る
……?)
フィリベルトはバルコニーの下をこっそり確認した。下には城に仕える騎士たちが数人待機していて、木登りなんてしたら確実に注目を集めてしまう。そんなことになったらフィリベルトは向こう数百年は社会に出られなくなるだろう。考えただけで血の気が引いてくる。衆目がある以上、自分で取るのはフィリベルトには無理である。
なんとかして帽子を取り戻そうと、フィリベルトは必死の思いで打開策を探していた。最終手段は契約者に頼むことだが、いくら契約者とはいえ一国の王にそんなことを頼むのはさすがに気が引ける。
そんな風に思い悩むフィリベルトの視界に、それは突然飛び込んできた。バサバサと翼を羽ばたかせてバルコニーに降り立ったのは、一羽の白い鳩だった。首を前後に振りながら地面を突っついている様子はなんとものんきなものだ
——しかしフィリベルトにとっては紛うことなき救世主だ。
フィリベルトは逸る気持ちを抑えながら、鳩に焦点を合わせて
九宝の魔法を使った。
(今すぐ帽子を持ってきて
……!)
フィリベルトの魔法は「支配」だ。頭の中で必死に念じた命令はたちまち鳩の行動を操った。鳩は自らの意思と関係なく空に飛び立ち、枝に引っかかっていた帽子を咥えて再びバルコニーに戻ってきた。フィリベルトは素早く帽子を受け取ると頭に深くかぶり直し、安心したように大きくため息をついた。
支配の魔法が解けた鳩は、自分がしたことなどまったく覚えていない様子で再び地面をツンツン突っついている。
「あ、ありがとう
……」
フィリベルトの言葉が伝わった鳩は、分かっているのかいないのか読み取れない瞳をしながら首を傾げた。
>前の話(Day9:ぷかぷか)
10≫
>次の話(Day11:
蝶番)
12≫
>目次へ戻る
1≫
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.