Day12:色水
チンロンが噴水広場で偶然見かけたのは、子供たちと一緒に座り込んで何かを睨んでいる同僚、バイフーの姿だった。バイフーは人間の何倍も鋭い
白虎の聴覚ですぐにチンロンの存在に気がついて、元気よく手招きをした。首を傾げながらチンロンは彼らの輪に近づいていく。
「チンロンくん! ちょうどいいところに!」
「なにしてるの」
「子供たちが魔法で色水を作りたいらしくて、私はそれを見守ってるところ」
座り込んだバイフーのそばには透明なガラスのコップがいくつも置かれていた。それらはどれも透明な水で満たされている。噴水の水を汲んだのだろう。子供たちはコップの水に手をかざして、水の色を変えようとそれぞれに独自の呪文を唱えて試しているらしい。
「成功したの?」
「残念ながら。私は水属性じゃないから教えることもできないし。チンロンくんならできるんじゃないかと思ってさ!」
笑顔でそう言ったバイフーは、水で満たされたコップをチンロンに差し出した。それを受け取ったチンロンは考える。水の色を変える魔法を、チンロンは試したことがない。呪文も知らない。だが子供たちが頑張っている姿を見て、自分も試してみたくなった。
まずは手応えを確かめるために気軽に試すことにする。チンロンは手元のコップに意識を集中し、一言呪文を唱える。
「《青い色に変われ》」
しかし水の色に変化はない。初めて使う魔法は既存の呪文を学んでいたとしても、実際に発動させるのは難しい。それが呪文もないとなれば、余程のセンスの持ち主でもなければ魔法として成立させることはほとんど不可能である。
ただし、何事にも例外はある。チンロンは
青龍の
幻獣族で、水属性の魔法を扱うことに関しては一家言あるし、水魔法の力を増幅させる青の
龍玉も持っている。チンロンは顔の横の何もない空中から青い
龍玉を出現させた。
龍玉を携えたチンロンは再びコップの水の色を確かめると、今度は集中するために目をつぶった。真っ暗な世界の中で、コップに注がれた透明な水をイメージする。その水がインクを垂らしたように段々と青く染まっていくところを想像しながら、チンロンは確信を持って呪文を唱えた。
「《青の雫 空を映す澄んだ水の色よ》」
呪文に合わせて青い
龍玉が淡い光を放ち、その光に呼応するようにコップの水面がわずかに波打った。波打った点から青い雫が水中に沈んでいき、そこから広がるようにしてコップの水は空と同じ澄み渡る青色に染まっていった。
それを近くで見守っていた子供たちから、わっと歓声が上がった。
「うおー! すげー!」
「ほんとに青くなってる!」
「さすがは
青龍さまだな!」
「チンロンくん、ありがとね」
最後にお礼を述べたバイフーに頷き返して、チンロンは噴水広場をあとにした。背中越しにチンロンの呪文を真似する子供たちの声がいくつも聞こえてきて少し気恥ずかしい思いをしたのは、感激してくれた子供たちには内緒である。
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