Day19:網戸
「
……かゆっ」
「蚊に刺されたんですか?」
「そうなの。蚊取り線香ちゃんと炊いてるんだけどね」
廃寺を我が物顔で占拠する
篝火は
真白に冷たい麦茶を出し終えると、ドカッと腰を下ろして腕をボリボリと掻いた。見ると、腕の後ろ側が蚊に刺されて赤くなっている。そういえば同じ家に住む
楓も蚊に刺されて痒いと話していたなと、蚊に刺されない体質の
真白は他人事のように思い出した。
二人が座るそばには可愛らしい猫の形をした
蚊遣器が置かれ、そこから吐き出された煙があたりにふわりと散らばっていく。たしかに蚊取り線香を使っているようだが、これ一つでは広い廃寺から蚊を追い出すには足りないだろう。
「
白ちゃんはあんま刺されないんでしょ? 何かいい対策知らない?」
「そうですね
……蚊帳は使っていますか?」
「
蚊帳ねえ
……」
蚊帳というのは、主に寝る時に蚊などの虫が寄ってこないように、周囲を網で丸ごと覆ってしまうためのものだ。細かい網の目が虫を防ぎ、風は通すので夏場はよく用いられる。しかし
篝火は「
蚊帳は使わないなあ」と答えた。
「けっこう便利だと思いますけど、何か理由でも?」
「だって網なんて寝てる間においらの火で燃えて火事になりそうじゃん?」
「
……それを言ったら布団だって燃えて火事になるでしょう。適当なこと言って
……」
「バレた! いや、
蚊帳って意外とお値段するじゃない? おいらあんまりお金ないから
蚊帳はちょっとね」
「へえ
……というかあなたって仕事してないのにそもそもお金持ってるんですか?」
「仕事してるよ~! 何の仕事かは秘密だけどね」
麦茶とってくる、といって
篝火はそのまま立ち上がって廃寺の奥へ消えていった。
真白はその腕の後ろ側に一匹の蚊が止まっているのを見つけたが、そのまま放っておくことにした。
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