Day5:三日月
西の空を見るとすでに太陽は地平線の下に隠れ、深い青をした夜の空が世界を包み込もうとしているところだった。西にわずかに残った茜色の空も、あと数分経てば完全に闇に呑まれるだろう。
そんな時間に、ウィリアムとエドワードはまだ町を目指して足を動かしていた。昼間にトラブルがあって、前の町に戻るにも次の町を目指すにも中途半端な時間と場所になってしまったのだ。スタスタと歩いていくウィリアムの背中に、エドワードが遠慮がちに声をかける。
「ねえ
……あたりも暗くなってきたし、この辺で夜を明かしたほうがいいんじゃないかい」
ウィリアムは立ち止まってゆっくり振り返った。その顔には「誰のせいでこうなったと思ってるんだ」と書いてあって、エドワードはシュンと肩を落として黙ってしまった。
昼間、ウィリアムの忠告を聞かずに一人で先を歩いていたエドワードは、うっかりドラゴンの縄張りに侵入してしまった。怒り狂ったドラゴンはエドワードを散々追いかけ回し、はぐれた二人が合流したときにはすっかり道が分からなくなっていた。なんとか元の道に戻ったときにはすでに夕方で、そして今に至るというわけだ。
しおらしくしているエドワードを見て、ウィリアムは大きなため息をついた。それを聞いてエドワードはさらに小さくなる。
「
……まあ、お前の言うとおりだな。あそこの木の根本で休む準備をしよう」
「う、うん
……!」
エドワードはウィリアムの隣に並んで、彼が示した木を目指して歩き出した。ウィリアムはエドワードの横顔を盗み見て、気まずそうに視線を斜め上に向ける。その先にあったものを見つめて、ウィリアムは視線はそのままに口を開いた。
「
……エド」
「なに?」
「あっちの空、月が見える」
ウィリアムの視線の先には細い三日月があった。茜色と深い青のグラデーションの空に静かに浮かぶ三日月はとても美しい。
「
……きれいだぞ」
「ああ
……あのさ」
「なんだい?」
「
……今日のことは、俺も悪かった」
「な、なんで君が謝るんだい。謝るのはオレのほうだぞ。オレが
迂闊だったから
……」
「それはそうなんだけどさ。俺ももっとちゃんと注意しとけばよかったし、そのあとの俺の態度も大人げなかったと思うし
……」
目を逸らしたまま、照れくさそうに片手を首の後ろにやりながら、ウィリアムはぽつりぽつりと己の反省を溢していった。最後にちらりとエドワードの顔色を伺うように視線を戻して、口を閉じた。驚きのまま最後まで黙って聞いていたエドワードは、ウィリアムが言い終えたのを確認してから不安そうに口を開く。
「
……じゃあ、仲直りってこと?」
「
……まあ」
その返答を聞いて、エドワードは一気に顔を明るくした。その喜びようにウィリアムが面食らっている間に、エドワードがどんどん言葉を吐き出していった。
「よかったー! オレもうこのまま仲違いしてじわじわ距離が開いていってもう修復できないんじゃないかと思ったんだぞ!」
「え、ええ。そんな大げさな
……」
「大げさなんかじゃないぞ! 君は人間なんだから、オレがちょっと距離を置いてる間にあっという間に死んじゃうんだぞ! 早く仲直りできて一安心なんだぞ」
先に火を起こす準備をすると言って一人で走っていったエドワードの背中を半ば呆然として見送ったウィリアムだったが、すぐに気を取り直して駆け足で後を追っていく。その間にもエドワードの勘違いを訂正する言葉を考えている。
(俺が大げさだって言ったのは、俺たちはそんな簡単に離れていくような関係じゃないだろって意味だったんだけどな
……)
まあ、それはまたいずれ伝えることにしよう。茜色が地平線の彼方に沈み、星が瞬く空の下で、日々姿を変えていく美しい月に見守られながら、ウィリアムとエドワードは幾重もの夜をともに過ごすことになるのだから。
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