Day15:解読
「魔法陣の解読?」
「そう。さっき協会で無理やり押しつけられてな」
トレジャーハンター協会に今回の依頼の報酬を受け取りに行ったウィリアムは、宿に戻ってくるなり紙を一枚取り出して真剣な顔をしながら頭をひねり始めた。宿で大人しく留守番をしていたエドワードがベッドに座って唸るウィリアムの後ろに回り込み、ベッドに乗り上げながら紙を覗き見たところ、随分と複雑そうな魔法陣が描かれていたのだった。
「でも君、魔法陣の解読は専門家がやるのが普通だって前に言ってなかったかい?」
「ああ。だけど今回のは難しすぎて専門家でも解けないらしくて、協会で一部の人に解読の依頼を出してるって」
「へえ。それで、分かったのかい?」
「さっぱり」
ウィリアムはお手上げと言わんばかりに片手を振った。エドワードの記憶では、ウィリアムが魔法陣を描いているところは見たことがない。一般的な範囲で魔法陣が描かれた魔道具や施設を利用することはあるが、そういうものはすべて魔法陣の仕組みが分からない人でも使えるように作られている。
魔法陣というのは魔法とは異なる仕組みで作用する特殊な技術だ。複雑な法則に基づいた円形の紋様を描き、その中心に魔力を流すことで魔法を発動させる。すでに描かれた魔法陣であれば仕組みを知らずとも魔力を流すだけで魔法の効果を発揮させられるが、魔法陣を一から描こうとすればその仕組みをよくよく理解していなければならない。ほんのわずかでも線がズレれば機能しない、非常に専門的な技術なのだ。
目の前に描き写された魔法陣は何重もの円形の紋様が描かれた、稀に見る大掛かりなもののようだ。だがその上から別の色のインクで大きくバツ印を重ねて描かれている。
「ねえ、このバツはなんだい?」
「これは、うっかりこの紙に魔力を流して、まだ効果が分かってない魔法陣が発動しないように無効化してあるんだよ」
「なるほど
……この魔法陣って元はどこに描かれてたものなんだい?」
「協会の人は、相当古い遺跡の壁から見つかったって言ってたけど」
エドワードはその答えを聞いて、遠い昔の記憶を呼び覚ました。それは今の世界が生まれるよりも前、
旧世界と呼ばれる時代の記憶だ。エドワードにはどうせ使えやしないのに、かつての魔法使いが楽しそうに教えてくれた魔法の知識。
ウィリアムの手元の魔法陣の、一番外側に描かれた紋様の一部を指差して、エドワードは古い教えを口にした。
「ここの紋様は、対象の位置を指定するための記述になってるんだぞ。そのそばに条件を定義するための紋様があって、横の紋様がその条件を表してるはずなんだけど、オレは覚えてないから、真白かローランドに聞いたら分かると思うぞ」
「
……え? お前魔法陣わかるの?」
「今の世界で作られたやつはまったく分かんないけど、
旧世界の魔法陣は教わったことがあるんだぞ」
「
……意外だけどそうでもないのか
……?」
驚きで開いた口が塞がらないウィリアムに、エドワードははにかんでベッドから降りた。エドワードが生きてきた時間の長さを思えばウィリアムよりも知識が豊富なのは当然とも言えるが、普段の世間知らず加減からどうもにわかには信じられない心地だ。
エドワードは窓から傾き始めた太陽を見て「もうすぐ夜ご飯の時間だぞ!」といつもより大袈裟に喜んでみせた。柄でないことをしてしまった気恥しさがあるのだろう。ウィリアムはその誤魔化しに付き合って、魔法陣の描かれた紙をベッドに放り出した。立ち上がりながらエドワードに向かってにやりと口角を上げる。
「照れなくてもいいのになあ」
「うるさいぞ」
渋面で頬を膨らませるエドワードとともに、二人は宿の食堂へ向かっていった。
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