Day30:花束
聖樹の森と隣接する街との境界線付近に見知った二つの魔力反応を感知して、森の最奥の屋敷にいたローランドは火をつけた鍋から顔を上げた。この魔力はローランドの二人の兄、
真白とクライドのものだ。
二人の魔力は森の上空をかなりの速度で移動し、この屋敷に向かってきている。風属性の魔力を感じるので、恐らく
真白の魔法で風を起こし、空を飛んでいるのだろう。
しばらく待つと、屋敷の玄関扉のドアノッカーを叩く音がかすかに聞こえた。この屋敷は広いので、ドアノッカーを叩いても来客を知らせる役目を十分に果たせるとは言いがたい。しかしローランドは、森に入り、屋敷を訪れる者の存在を魔力によってすぐに察知することができるので不都合はなかった。
ローランドは鍋の火を止めてから、空間転移の魔法で玄関の外の、
真白とクライドの背後に瞬時に移動した。
二人は気配にすぐに気づいて、くるりと身体の向きをローランドに向けた。そこでローランドの視界に入ったのは、クライドが胸の前に抱えている花束だった。青い花を中心に構成されたその花束はどこか幻想的で、見るものの目を引きつける美しさだ。
ローランドは花束を見たあと、感情の読み取れない目をクライドの方へ向けた。
「どうしたの、それ」
「ロー、今日誕生日だろ? こいつはお祝いだ。おめでとさん」
「ローラン、誕生日おめでとうございます」
クライドと
真白は祝いの言葉を述べてから、その花束をローランドへ差し出した。ローランドはその花束を受け取ったが、その表情は何も変わらない。
ローランドには感情がない。だから誕生日に感慨はないし、誰かに祝われても嬉しいとは感じない。反対に、もし誰からも祝われなかったとしても寂しさや悲しさを感じることもなかっただろう。
ローランドの頭の中では今、誕生日を祝うことの合理的な理由についての思考が渦巻いているが、これといった回答は得られなかったらしく小さく首を傾げている。
そこまでをすべて察した
真白が苦笑しながら口を開いた。
「ローラン、あなたの魔力の源は誰かの祈りでしたね。その花束には人の祈りが込められています。花束を作ってくれた人の、この花束が誰かを喜ばせますようにという祈り。私たちの、可愛い弟がこの世界を楽しめますようにという祈りです。私たちの誕生日の贈り物は、そういう祈りなんですよ」
「
……そう。ありがとう」
ローランドは納得したように頷いて、お礼を口にした。ありがたみを感じているとは思えないので、この状況で最もふさわしい言葉を機械的に選んだだけだろう。
今はまだそれで構わない。いつか、どれほど時間がかかってもいい。何百、何千回先の誕生日で、ローランドが何かを思うことができるようになってくれれば。
真白とクライドは顔を見合わせて、悪戯っぽい共犯者の笑みを浮かべた。
この花束は、そういう祈りなのだ。
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