Day4:口ずさむ
機械の整備中、どこかで聞いた覚えのあるメロディーが耳に入ってきて、クライドは手元の機械から顔を上げた。その音の主は、クライドの工房に今朝この機械を持ち込んで修理を依頼してきた常連客の男だった。男は修理を待つ間、工房に置いている他の機械たちを眺めながらそのメロディーを口ずさんでいるらしい。
「その歌、懐かしいな」
「お、あんたも知ってるのか。これは俺が子どもの頃に婆ちゃんが聞かせてくれた歌で、婆ちゃんは俺の
曾祖母ちゃんから聞いたって
……」
昔を思い出しながら上機嫌に話していた男だったが、そこでふと疑問が湧いた。自分の機械を預けているクライドの姿を改めてまじまじと見つめてみる。声こそ成人男性のように声変わりした低音だが、背丈や顔立ちは十二歳の自分の息子とほとんど変わらない。短い丈の衣服から覗く手足も子供らしい未発達な細さをしている。そのクライドが、自分の
曾祖母の時代に歌われていた歌を「懐かしい」と言ったということは
——
「あんた、改めて聞くが、一体何歳なんだ
……?」
そう問われたクライドは一瞬、虚を突かれたように動きを止めた。だがすぐに機械の整備を再開し、呆れたように口を開いた。
「おいおい、今さらそんなこと聞くのか? 俺が見た目どおりの年じゃないことくらい、最初から知ってただろ」
「そりゃそうだが
……そうはいってもせいぜい俺と同じくらいかと思ってたんだ。まさか
曾祖母ちゃんと同世代とは
……」
「ほら、それより整備終わったぜ。毎度毎度、あんま乱暴に使うなよ。こう見えていい年だからな、いつまでも俺が面倒見てやれるとは限らねえぞ」
「悪かったって。これからも頼むよ、クライド」
お代を支払って満足げに工房を去る男を見送ったクライドは、一人になった工房で大きく息を吐きだした。後頭部をガシガシとかきながら、頭の中で考えを巡らせていく。
本当は、あの男の
曾祖母と同世代なんてものではない。
曾祖母の
曾祖母のそのまた
曾祖母までさかのぼってもまだクライドの方が確実に年上だ。なんなら今いる
歯車の
国よりも、今のこの世界が生まれるよりも前からクライドは存在している。
先ほどの男は気さくな良い人間で、町の人々から慕われていて色々な人と立ち話をしているところをよく見かける。今知ったばかりのクライドの年齢のことも悪気なく話題にするだろう。彼はクライドの秘密を、その正体を知らないから。たとえ本当の年齢からは外れていようと、余計な噂になるのはクライドの望むところではない。今の町にはかれこれ数十年暮らしている。立ち去るには丁度いいタイミングだ。
考えながらクライドは自然と、男が歌っていた懐かしいあの歌を口ずさんだ。
「
——いつも笑い声が聞こえていたあの場所 もう二度と戻れない」
クライドは自嘲気味に鼻を鳴らして、「Closed」と書かれた看板を手に取った。
>前の話(Day3:鏡)
4≫
>次の話(Day5:三日月)
6≫
>目次へ戻る
1≫
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.