Day2:風鈴
じっとりとした暑さがまとわりつく夏の真昼間。チリン、とどこからか鈴が鳴るような涼やかな音が聞こえる。
音の出処を探して、
真白は
比良坂家の縁側まで辿り着いた。その軒下には
真白の予想通り、風に吹かれてチリンチリンと音を鳴らす風鈴が一つ。
そしてその下には、軽やかな音を奏でる風鈴を興味深げに見上げているカエルの魔法生物が一匹。
「いろは。こんにちは」
いろはと呼ばれたその魔法生物は、
真白が世話になっている人間の大切な友人だ。いろはは
真白の挨拶に一度風鈴から目を離し「ケロ」と鳴いて答えた。
「風鈴を見ていたんですか?」
「ケロ!ケロ~」
「たしかに、夏の暑さを忘れさせてくれるような素敵な音ですね」
「ケロケロ」
「え、もっと聞きたいんですか? そうですね
……」
真白といろはは、互いに使う言葉は違っていても意思疎通ができる特別な関係だ。正確にいうと、特別なのは
真白のほうだ。魔法生物というのは賢いものが多く、いろはのように人間の言葉を理解できるものは実はそれほど珍しいわけではない。ただ魔法生物は人間の言葉を話せないので、人間以外の言葉を理解できない人間とは会話が成立しないのだ。
ではなぜ
真白といろはが異なる言葉同士で会話を成立させているかというと、
真白が人間ではないからいろはの言葉も理解できる、というわけだ。
真白は人間では持ちえない特別な魔法を使い、他者の頭の中を直接読み取ることができる。
いろはがカエルの言葉で伝えたお願いに、
真白は腕を組んでわざとらしく考える素振りをしてみせた。それをいろはは疑いもせず、キラキラとした期待の眼差しでもって
真白を見上げてくる。
真白はふっと肩の力を抜いて、純真な願いに応えるべく懐から扇子を取り出した。
「仕方ないですね。今回だけですよ」
「ケロ!」
真白は片手で勢いよく扇子を広げると、風鈴に風が当たるように優しく扇子を仰いでみせた。扇子が起こした風で風鈴の短冊が揺れ、ガラスが涼しげな夏の音色を絶えず響かせる。
チリンチリンチリンと贅沢に鳴り続ける風鈴の音に合わせ、いろはがケロケロと喉を鳴らして楽しそうに歌い始めた。氷を思わせる爽やかな風鈴の音に、石に打ち付ける雨垂れを想起させるカエルの鳴き声が合わさって、そのハーモニーは
真白に一時だけ夏の暑さを忘れさせた。
風鈴とカエルの不思議なハーモニーはしばらく続いたあと、
真白が扇子を仰ぐ手を止めたことで終わりを迎えた。
「ケロ?」
「ずっとはさすがに疲れますよ。
楓が戻ってきたらまた鳴らしてあげますから、今の歌をぜひ聞かせてあげてください」
「ケロ!」
そしてその言葉の通り、いろはの友人である
楓が帰ってくると、
比良坂家の縁側では再び風鈴とカエルのハーモニーが奏でられたのだった。
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