Day6:呼吸
静寂に包まれた夜だった。外には雪が厚く積もり、すべての音を吸収してしまっているようだ。鳥の鳴き声も、風が吹く音も、何も聞こえない。唯一聞こえる音といえば、この家の中で眠っているエステルの微かな寝息だけである。すぅ、すぅ、と規則的な呼吸音がユリウスの耳に届く。
ユリウスのベッドで眠る彼女を見て、この前、彼女の兄から散々怒られたことを思い出す。曰く、年頃の女の子を自宅に連れ込んで二人きりになるなんて一体どういう神経をしているのか、と。ユリウスは彼女の兄が思っているような「普通の人」ではないので彼が心配するようなことは何一つないのだが、難儀なことにその事実は誰にでも簡単に開示できるものではなく、誤解を解くことができないままユリウスはいつまでもエステルの兄から危険人物として扱われている。だとしても、ユリウスは自分が人間ではないことをエステルに勘づかれるのを避けている。
眠いわけではなかったが、ユリウスも彼女にならって眠りにつくことにする。一般的な生物とは異なりユリウスに睡眠は必要ないが、エステルがいるときはできるだけ人間と同じ行動を取るようにしている。ユリウスはソファに収まって目を瞑り、あたかも寝ているかのようなポーズを取る。耳を澄ますとエステルの寝息が聞こえ、それ以外の音はしない。
(そういえば、僕の寝息が聞こえないのは人としては不自然なのかもしれない)
思い当たって、エステルを真似て呼吸を開始する。呼吸をしないで生きている人間なんていないのだ。ここで気づくことができてよかった。ユリウスの耳には今、エステルの寝息と、自分自身の寝息が確かに聞こえている。
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