Day4:アクアリウム
木々の間を、発光する魚が群れを成して泳いでいる。魚に見えるこれは本物の魚ではなく、魚の姿に似ているだけの精霊だ。夜の
聖樹の森は頭上に茂る樹木の葉に月明かりが遮られるためとても暗い。だがこの魚のような精霊が途切れることなく泳いでいるおかげで、ローランドにはイルミネーションに彩られたようにあちこちカラフルに輝いて見えている。まるでアクアリウムのようだ。遠い遠いかつての時代、金魚を入れた水槽をカラフルな光でライトアップする展示会があったような覚えがある。もっとも、今目の前にいる魚は水槽から飛び出して人と同じ空間を泳いでいるわけだが。
ローランドが身体の前に手を伸ばすと、魚の群れは蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げていった。しかし、しばらくすると今度は伸ばした手の先に少しずつ集まってくる。ローランドの周りをくるくる泳ぎ回ったり、手を突っついてみたり、本当に魚のようだ。餌がもらえるとでも思っているのか。魚に与えるような餌はあいにく持ち合わせていないが、精霊にとっての餌のようなものならローランドは腐るほど持っている。
ローランドはその身体からほんの少し、魔力を溢れさせた。途端、魚の姿をした精霊たちの動きがにわかに活発になった。すごい速さで縦横無尽に泳ぎ回るもの、先ほどまでより明らかに強い光を発しているもの、身体が異様に大きくなるもの、中には弾けるように消滅してしまうものもいた。そのどれもが、ローランドが零した魔力を食べた結果だ。精霊は魔力そのものに近い存在だから、魔力の影響を受けやすい。皆が皆、ローランドの強すぎる魔力にあてられて異常をきたしている。
そんな様子を観察しながらローランドはふと、この世界こそがアクアリウムの中なのかもしれないと思った。魚が水槽の外に出てきたのではなく、人が水槽の中に入っているのではないか。あながち間違ってはいないだろう。この
新世界はローランドたち
九宝が
創り、
九宝が管理する箱庭なのだから。だが人が観賞するために作られるアクアリウムとは違い、この箱庭を外から観察する者はいない。
九宝は世界を
創ったが、神を
創ることはしなかった。だからこの世界を上から眺めるような神はいない。
(
……精霊がすこし多いな。森の魔力濃度を調整しないと)
神がいないなら、自分たちで世界を維持していかなければならない。それがこの世界を
創ったものの責任だと、ローランドは思っている。
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