Day25:カラカラ
クライドから渡されていた試作品の通信機が音声を受信したのは夜遅く、森のすべてが静まり返る時間だった。その通信でクライドに近所の植物の様子がおかしいので見に来てほしいと言われ、ローランドはすぐに
歯車の
国へ飛んだ。ローランドの魔法はどれだけ離れた場所でも一瞬で移動できる、
所謂テレポートだ。
ローランドが突然目の前に現れたことに驚きもせず、クライドは未だ通信中だった機械の電源を切るとローランドをある場所へ案内した。そこには小さな池があり、その周辺に背の低い草や木が生えている自然豊かな場所だった。ただ、生えている草の多くはすっかり水分を失ってカラカラに干からびている。ここまで案内してきたクライドは眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。
「ここ、どう思う」
「すぐ横に池があるから、水が足りないとは思えない。他の原因がある」
「たとえば?」
「土か水が良くない。それか、温度が高すぎる」
「温度? そんなに暑くないと思うが」
「気温はよくても、水の温度は?」
言われて、クライドはおもむろに指を池に浸してみる。静かに凪いだ水面からは想像できないほど、その水温は高かった。沸かした風呂よりもずっと高いように思える。だというのに、池の水面に湯気らしき空気の揺らぎは見つけられない。
「なんだこりゃ? 池は熱いのに、その熱が空気には伝わってねえのか」
「食べられてるんだよ、あれに」
「
……あれ?」
ローランドが見つめる先は池の中央あたりの水上だった。クライドが目を凝らして確認すると、夜の闇に紛れて白い布のような不定形の揺らぎが見える。ゆらゆらと形を変えながら水面スレスレを滑るように移動している。ソレがこちらに近づいてきたとき、身体が凍りつきそうなほどの冷気が足元から侵食してきて、クライドは思わず後ずさりをしてしまう。
「なるほど、あれが空気の熱を片っ端から食ってるってわけか」
「空気からしか熱を摂取できないから、わざわざ水をお湯に変えてる」
「アレがここにいる限り、ここらの植物はいつまでもカラカラだな」
このままじゃ俺の貴重な薬草採取地が全滅しちまう。そう言ってクライドはコートの裏から自作の銃を取り出して構えた。煙のような体を持つ相手に物理攻撃が効くとは思えないが、ローランドがそれを口にすることはない。勝負の結果はどうせ分かりきっている。
一週間後、池の周りには青々とした草木が元通りに蘇ったという。通信機越しにそう報告してきたクライドは、今度写真機の試作品で撮った写真を送ると言って通信を切った。
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