Day23:ストロー
「確かに
私、蚊に刺されてみたいって言いましたよ。言いましたけど
……」
真白は竹藪の間を縫うように駆けている。片手に閉じた扇子を握りながら開けた場所を目指してひた走る。
真白の背後からはブウゥゥンと重低音が響いていて、段々と距離を詰めてきているのが分かった。
前方が明るく光り、
真白が竹藪を抜けるのと同時に頭上に飛び出してきたのは、細長い胴体に二枚の翅を生やし、頭部に凶悪な
口吻を持った巨大な蚊の魔物だ。中が空洞になったストロー状の口の先は針のように鋭く尖り、その周囲にノコギリのようなギザギザの刃がずらりと縦に並んでいる。
「あんなのに刺されたら痒いどころか死にますよ」
「
白ちゃん、なんとかしてよ」
「元はと言えばあなたの蚊取り線香に怒って襲ってきたんじゃないですか」
篝火が言い返そうとしたところに魔物が重低音を響かせながら突進してきて、
篝火は慌てて回避する。
骨玉に灯した
獄炎を鬼火のように飛ばして応戦するが、素早い動きでかわされてしまう。その攻撃で怒りのボルテージがさらに上がった蚊の魔物は、攻撃してきた
篝火を狙って凶器の口を何度も突き立ててくる。
「
白ちゃん! おいらが囮になってる間にホントなんとかして! 早くしないと死んじゃうから!」
「仕方ないですね
……」
ノコギリでバラバラに刻まれたあとストローで吸い尽くされる
篝火というのもさぞ見物だっただろうが、ここで見殺しにすると間違いなく町の人たちに人格を疑われる。そうすると好青年で通している手前、後処理が面倒そうだ。
真白は使うつもりだった扇子を懐にしまうと、空中の何もないところから刀を取り出した。居合の構えをして、
篝火と巨大な蚊の動きをじっと見据える。魔物がその口を突き刺そうとして
篝火以外の周囲が見えなくなったその瞬間、
真白は刀を抜いた。瞬きの間に魔物の口は根元から斬り落とされ、魔物がそれに気付くよりも早く今度は胴体が真っ二つに斬り捨てられた。一瞬にして目の前に転がった魔物の亡骸に、
篝火は唖然としている。
「
篝火、無事ですか」
「あ、うん
……ありがと。
白ちゃん、いつの間に刀なんて持ってきてたの」
「
……ああ、まあそうなりますよね。今のは忘れてもらいましょう」
「え」
次の日、
篝火は酷く疲れていたが、前日に蚊の魔物と命懸けの追いかけっこをした記憶をすっかり失っていた。昨日は散歩に来た
真白と蚊の話をしたあと、いつも通りに過ごしただけのはずなのに、どうしてこんなに身体が疲れているのだろう。答えは
真白のみぞ知る、である。
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