Day3:飛ぶ
竜王城の広い廊下を一人の男が全力で駆け抜けていく。すれ違った使用人たちは皆、驚いた顔をして通り過ぎた人物を振り返っている。それもそのはず、全力疾走しているのは
竜王城の主であるルシウス陛下その人なのだから。ルシウスはまるで何かから逃げるように時々後ろを気にしながら、しかし速度を落とすことなく廊下を突き進んでいく。
その後ろを全力で追いかける男がいた。ルシウスの側近であるカイルだ。彼の鬼のような形相を見た使用人たちは青褪めながら、できるだけ距離を取ろうと廊下の端に避けていく。両者の距離はかなり開いているが、カイルは尋常ではない速度で猛烈な追い上げを見せている。魔法を使って自分の身体を大幅に強化しているのだ。あと数秒もあればルシウスに追いついてしまうだろう。
だが、ルシウスは正面を見据えて勝利を確信したような不敵な笑みを浮かべた。ルシウスの向かう先を分かっているカイルは逃がしてなるものかとさらに速度を上げるが、ルシウスがそこへ辿り着く方が早かった。廊下を走り抜けた先にあったのはドラゴンたちが離着陸するための広場だった。ルシウスは、その広場の中央で姿勢を低くして今にも飛び立とうとしている一頭の黒いドラゴンのもとへ真っ直ぐ向かっていった。反動をつけるために下げられたドラゴンの背中へ躊躇なく飛び乗り、次の瞬間にはその黒いドラゴンとともに空へ飛び立っている。突然背中に飛び乗られたドラゴンも驚くことなく、ルシウスの騎乗を許している。あと一歩のところでルシウスを逃がしたカイルは空を見上げ、呆れたようにひとりごとを漏らす。
「はあ
……最初から飛んで逃げるつもりで、彼をここに待機させていたのですね」
ドラゴンの背に乗って自らの側近から逃げおおせたルシウスは、地上からこちらを見上げているカイルを見つけて大きな声で呼びかける。
「カイル、ごめんね! すぐ戻るから! よろしく!」
その声は非常に上機嫌だった。太陽と同じ方向を飛んでいるから、いつまでもルシウスを見上げているととても眩しくて敵わない。
カイルは一度大きな溜め息をこぼしてから、意識を切り替えることにした。褒められたことではないが、ルシウスはしょっちゅう城を抜け出す逃走の常習犯なので、国王不在時の対応は慣れたものだ。
ルシウスは大空を背にしてこちらに向かって手を振っている。それに答えるべく、カイルはルシウスに向かって最敬礼をしてから、
竜王城の中へ戻っていった。これから片付けなければならない仕事が山積みだ。
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