torino_y
2024-08-12 18:38:54
33060文字
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文披き2024まとめ(Day1~Day31)

2024年7月に参加した企画「文披き」で書いた『九宝のせかい』短編のまとめです


Day15:岬

 以前、海に近しい知り合いの一人から、とある岬にまつわる話を聞いたことがある。曰く、近くの村ではときどき、海に呼ばれていると言う者が現れていた。海に呼ばれた者は他の人の話を聞かなくなり、親しい人に説得されても一切聞き入れず、海へ向かおうとする。そうして近いうちに村のすぐそこにある岬から海へ飛び込んでしまい、二度と戻っては来ないのだそうだ。結局、その村は今では村民が全員海に飛び込んでしまって廃村になってしまったのだとか。
「おいらからするとよくある話だけど、かえでちゃんは多少興味ある感じ?」
 ざっと概要を話し終え、篝火かがりびは黒猫の面の下から見えない目をかえでに向けて問うてくる。かえでは顎に手を当て、考える素振りをしている。
「ただの眉唾物の怪奇譚かもしれないけど、魔法生物か魔物が関わってる可能性もありますね……
「そーお?」
「人の言葉を真似て人を惑わして、おびき寄せて食べてしまう魔物がいると聞いたことがあります」
「そりゃーおっかないね!」
 篝火かがりびは両腕で自身の身体を抱えるようにして、おどけたように怖がる仕草をしている。そんな篝火かがりびには目もくれずにかえでは予め準備してあった遠出用の荷物を手に取って、篝火かがりびと向き合った。
「調査したいので、場所を教えてもらえますか?」
……一人で行くの? もしホントにそんな魔物が出るなら危ないんじゃない?」
「いきなり現地に乗り込むわけじゃないですよ。まずは付近の村で話を聞いて信憑性を確かめるつもりです」
「ふーん。じゃ、おいらが特別に道案内してあげるよ」
……一緒に行くんですか? でも火車かしゃさんがいなくなったらこのお寺がもぬけの殻になっちゃうんじゃ……
「ここ、元々廃寺だからもぬけの殻でも問題なーし! それにおいらもこの話のことで気になることがあるしね」
「気になること?」
 かえでは首を傾げたが、篝火かがりびは意味深に微笑んだだけで返事をしなかった。恐らく篝火かがりびの役割とやらに関わることなのだろう。かえでが聞いても詳しいことは教えてくれないが、篝火かがりび妖族あやかしぞくとしての役目で仕方なくこの廃寺にいるのだと言っていた。
 篝火かがりびに促されて地図を広げ、二人で行き先を確認する。それほど遠くはないからすぐに到着できそうだ。こうしてかえで篝火かがりびの不思議な旅が始まった。

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