torino_y
2024-08-12 18:38:54
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文披き2024まとめ(Day1~Day31)

2024年7月に参加した企画「文披き」で書いた『九宝のせかい』短編のまとめです


Day14:さやかな

 空気が冷たく冷えきった、いかにも冬らしい夜だった。昼までは空に厚い雲がかかり、真っ白な雪がしんしんと降っていた。夜になる前に雲はすっかりどこかへ消えて、冬の澄んだ空気の中で月のない夜空にはいくつもの星がさやかな光を放って輝いている。
 フィリベルトは一人、バルコニーから星を眺めている。人間を真似て、はーっと息を吐いてみるが、出てきたのは無色透明の空気だけだ。本物の人間がやったなら白い息が吐き出されていただろう。自分の息の色を見て、フィリベルトは自分の正体を無感動に確かめる。出自を同じくする兄の一人は人間を羨んでいると聞いたことがあるが、フィリベルトはその気持ちを理解できない。フィリベルトは人間が人間であることを羨ましいと思ったことはないし、そもそも自分は人間と関わることがあまり得意ではないから、自分から人間に近づきたいなどと考えることはない。
「おい、そこの人間、まだ寝ないのか」
 突然、下から猫の鳴き声が聞こえてフィリベルトは星を眺めていた目を地上へ下ろす。下には猫が数匹いて、そのうちの一匹が声をかけてきたようだった。フィリベルトは返事をしようと思ったが、ここからだと大きな声を出さなければならないため、バルコニーから身を乗り出して地上まで一気に飛び降りた。見事な身のこなしで着地を決めたフィリベルトに猫たちが近づいてくる。
「お前、人間のくせに我々のような軽やかさだ」
「夜も起きているとは、我々のような人間だ」
「お前、本当は我々と同じか?」
 ニャーニャーと口々に言いたいことを言ってくる。その興味津々な猫たちの様子が可笑しくて、フィリベルトはクスクスと笑いを漏らす。それを聞いてさらにウニャウニャ言っている猫たちを静止して、フィリベルトは口を開く。
「俺は、人間じゃないから、夜も寝ない」
「ではやはり我々と同じか」
「それも違う。俺は、生き物じゃない」
「それはおかしい。お前、動くし話す。生きている」
「機械だって、動く。でも生きてない」
「だが機械は我々と話をしない。お前は話す」
 猫というのは意外と賢い。それに、フィリベルトは自分のことを上手く説明できる言葉を持っていない。元々話をするのも得意ではないので、猫たちを納得させるのは難しそうだ。だがそれでも構わなかった。
 フィリベルトはコートの内側からおもむろに猫じゃらしを取り出した。途端、猫たちはお喋りをやめて猫じゃらしに釘付けになる。猫じゃらしを右に振ると猫たちも一斉に右を向く。左に振ると左を向く。少し焦らしてから一気に上に振ると、我慢しきれなかった猫が前足を伸ばして飛び上がった。可愛い。夜はふけていく。

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