Day13:定規
「カイルさんって、仕事辞めたくなったことないんですか?」
向かいの席で共に昼食を取っているカイルにウィリアムがこんなことを聞いたのは、純粋に疑問だったからだ。一国の王であるはずのルシウスは
竜王城でやるべき仕事を放り出して城を抜け出してしまう。国王の側近であるカイルはいつもその尻拭いで忙しそうにしている。今日もルシウスが手をつけずに置いていった仕事に優先順位を付け直し、次に帰ってきたときにすぐに着手してもらえるように整理していると言っていた。ルシウスがいない間にも新たな案件は増えていくので、カイルはそのたびに周囲の人々とその場にいない王の間に入って仕事の調整を繰り返している。ルシウスさえ真面目に働いてくれればカイルの仕事の忙しさは生まれないのだから、表には出さずとも内心でルシウスのことを恨んでいたっておかしくないだろう。
「俺がカイルさんの立場なら、椅子に縛り付けてでもルーシャに仕事させますよ」
「正直なところを申し上げますと、逃げるルシウス様を全力で追いかけて城内を疾走する程度には、あの方にはきちんと仕事をしていただきたいと考えています」
カイルは国王側近に相応しい礼儀正しい口調で返答し、目の前の焼きマンマルブタの肉に真上から垂直に力を込めてフォークを突き刺した。ブスリと穴があいた焼き豚からはドクドクと肉汁が流れ出ている。それはカイルが普段決して表に出さないすべての怒りを込めた全力の一撃だった。
「で、ですよね
……」
「ええ。ですが、ルシウス様のことを
杓子定規に扱ってしまうのは、
竜の
国にとって大きな損失になると、そのように思っているのです」
「ああ、それは悔しいですけど分かります」
ルシウスは歴代の
竜王の中でもとびきり若い年齢で王になった。加えて、第一王子だった兄をおいて王座に就いた第二王子という肩書きも持っている。彼は王になったそのときから普通ではなかったのだ。仕事をしないのは確かに困りものだが、それを補って余りあるほどの見識や視野の広さを持って
竜の
国を導いてくれている。
「ですから、
私はこの仕事を辞めたいと思ったことはございません。
私はルシウス様に仕えられることを誇りに思っております」
そう答えたカイルの顔がとても自信に満ちたものだったので、
竜の
国の一国民であるウィリアムは安心感を覚えた。
二人で食べたマンマルブタはいつも通り、最後の一欠片まで美味しかった。
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