DRRV11037
2025-08-19 14:09:28
55991文字
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DRRV:1章探索編

Shoot the Moon



探索のおわりに、私たちは教室Aと書かれた部屋に寄った。

そこにはネオンの巻かれた教壇と、向かい合わせのかたちで20前後の机と椅子が設置されていた。教室中を青白い光に染めている不気味な電子黒板には───……

「何スかこれ」

『怪盗ELDER参上!』と赤い文字が浮かんでいた。

どうやら、タッチパネル式の電子黒板に人差し指で描いたらしい。幼稚な筆跡で『盗』の字に苦戦した形跡さえもが読み取れる。黒板の上方は手が届かないからか、文字全体が下に偏っていた。どこからどう見ても微笑ましい悪戯っ子の落書きだ。私は犯人に心当たりがあった。

「昼間くんの仕業じゃないかな。自己紹介のとき『怪盗ELDER』って名乗ってたから。」

「それなら、私たちの誘拐とはあまり関係がなさそうね。」

「凄いッスねぇ小学生の字にしか見えないッス。」

その後、私たちは教室の中を探索した。天探さんは机の中をひとつひとつ調べて回り、楸谷くんは前方の掲示板を読み、釘山さんは窓を塞ぐ茨のような有刺鉄線をつついていた。私はというと、手持ち無沙汰になってしまったことを隠しながら、教室全体を歩き回り、自分が目覚めた2階の教室とこの教室をしばらく見比べていた。ここにはロッカーがない。私と榊くんはロッカーの中で目覚めたんだけどもしかしたら、他のみんなはそうじゃないのかも。

結局、出口はここにも見つからなかった。手がかりになりそうなものもない。私たちはやがてなんとなく、探索を終わろうかという雰囲気になってきた。

一つ、釘山さんに聞いておきたいのだけど。」
天探さんが沈黙を破った。

「貴方は、どこまで覚えているの。」

「どこまでと言いますと?釘山は、覚えていることは覚えているし、覚えていないことは覚えていないッスよ。」
釘山さんは答えにならない答え方をした。実際、忘れていることは忘れているのだから、答えようがないのかもしれない。

「この事件で鍵になる人がいるとしたら、それはたぶん貴方だと思うの
天探さんは迷いながらそう説明した。

「私は、ここに来るまでの過程を覚えていないの。気がついたらここにいたわ。二人はどう?」

「僕も同じです」

「私も

「誰もここに至るまでの過程を覚えていないのよね。その中にあって釘山さんは超高校級のメモリーアスリートで、話を聞くに、先天的に人とは違った記憶のプロセスを持っている。それならば、貴方だけが重要なことを記憶できている可能性があると思ったの。貴方の才能について詳しく教えてくれるかしら。何ができて、何ができないの?」

「此方もそれに関してはな~んも覚えてないッス。というか此方は記憶がトんでるのが普通だから、逆にそこ違和感なかったッスね」

釘山さんが自分の耳を撫でた。釘山さんの向かって右の耳たぶには、大きな穴が開けられている。そこへ通したイヤリングが、首を傾けるだけで滑って静かな音を立てるのが、私にとってはお洒落以上に怖い。

「釘山はどーでもいいことはぽんぽん忘れるけど、どーでもよくないことは忘れません。そこはきっと皆さんと同じように、多少コントロールが効くんですよね。だからこそメモリーアスリートになれたわけで。だから釘山が忘れてるとしたら多分考えたくないッスけど

釘山さんは顎に手を当てて考え込んだ。ともすれば軽薄そうな彼女が、眉間にしわが寄るほど真剣に悩み、こんな可能性を絞り出した。

「釘山の脳ミソが覚える必要がないと判断するくらい……恐怖も苦痛も感じず、状況をフツーに受け入れていたか……それとも、」

どこか虚ろな目で、ぼそりと呟く。

「人為的に

そのときの釘山さんの空疎な声色はまるで、考えたというより、運命的な答えに吸い寄せられたかのようだった。

「なんつーかスミマセン、一旦整理させてください。みんなで集まって報告する時間があると思うんで、そのときにまとめて言います。」

「よろしくお願いするわ。もしそのとき貴方が忘れていたら、私が教えるわね」

「あざッス」

私たちのグループの探索では、有力な手がかりを見つけることができなかった。でも、脱出の鍵は何も学園内に転がっているだけじゃないはず。釘山さんが持っている情報と他のグループの情報を組み合わせれば、何らかのヒントが生まれるかもしれない。そう気づくことができたのが成果だ。

何より、ミステリアスな三人のことが少しだけ分かった。

初対面では神秘的なイメージすらあった楸谷くんは、実はけっこうお茶目で感情表現が分かりやすい。
飄々としている釘山さんは、みんなとあらゆる感覚がズレているけど、それがときにユニークだ。
いろんな顔を持つ天探さんは、ちょっと怖いけど、きっと悪い人じゃないはず。ずっと脱出という目標一直線で動いているのだから。

私は顔を上げて、声をかけた。

「じゃあ、みんなに報告しに行こっか。」



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