DRRV11037
2025-08-19 14:09:28
55991文字
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DRRV:1章探索編

Shoot the Moon


廊下


私たちは校舎の1階を歩いていた。裁門さんはパーカーのフードを外して、昼の光を撚り合わせたような美しい金髪を屋内の空気にさらしながら、私たちの先頭を一切の迷いなく突き進んでいた。

「歩きながら作戦の説明をしまーす」とおもむろに高い声を張り上げる。
私は話を聞こうと意識を集中させた。

「我々の目標は『果ての壁』の調査。」

そう話し始めたところで「まだー?」と白跳さんが横槍を入れる。

「ちょい待ってね。具体的には2つのチャレンジをするわ。
 1.壁の高所の調査。
 2.壁を潜れるか試………

「まだーー?」

「ごめんね。今はそのために必要な道具を揃えるべく、倉庫に向かっ………

「まだーーー?」

………っっているところよ!!」
裁門さんは苦しげな表情で何とか説明しきった。最後のほうはほとんどやけだった。

「さ、裁門さん凄く頼もしいね。」

それでも、私は素直な意味で驚いていた。今やるべきことを落ち着いて考え、私たちにシンプルな言葉で伝えてくれる裁門さん。ニーハイやパステルカラーのヘアピンに身を固めた可愛い彼女の根っこが、それでもやっぱり軍人であることを意識させられる。

「思いつきよ。」
と裁門さんは何でもない口調で答えた。

「他にもアイデアある?榊はどう?」
そうして空色の片目で榊くんを見遣り、意見を求めた。

「んー倉庫にドリルがあったら、それで穴が開けられるか試すってのはどうだ?」

榊くんはそう提案した。やっぱり彼の意見は大胆でちょっと血の気が多い。でも、壁を破壊できるかどうか試しておくのは必要なことだと感じた。

「良いわね!四葉ちゃんは?」

「わ、私は特には。」
私は顔を伏せた。とても恥ずかしいのだけどまったく何も思い浮かばない。いろいろなことをすぐ思いつく二人を見習わなきゃ。裁門さんは「ん。」と短い声だけを返した。

そうして「白跳ちゃんは?」と彼女にも意見を求める。

そのときには、白跳さんの姿は忽然と消えていた。「まだー?」の催促が聞こえなくなったと思ったらこれだ。どうも彼女には不思議なところがあって、会話がうまく成立しない。関心を抱く範囲が狭すぎるせいであって、悪気がないのは分かってるんだけどね。

裁門さんは大きな溜息を隠さなかった。「最悪」

それから私たちは、白跳さん捜しで校舎中を歩き回った後、校舎の外に出ていた白跳さんをやっとの思いで連れ戻した。

「じゃあ白跳ちゃんがまたドロンする前に進めちゃいましょう。……さ!」
既にへとへとの私たち。裁門さんは大きな扉を見つけると、バンと叩いた。

「ここが倉庫のはずよ。作戦に使う道具を探しましょっか!」



倉庫


広い倉庫には、信じられないほど高い棚の列に、信じられないほどたくさんのカラフルな箱が詰め込まれ、積み上げられていた。私はおのぼりさんが初めて都会のビルのジャングルを見たときのような声を上げて、ただただそれを呆然と見上げた。

「あー!ポールだー!!」

白跳さんが突然叫んだ。何か跳躍選手の心惹かれるものを発見したらしい。黒く硬い床を蹴りあげ、肉付きのよい健康的な両脚を無邪気に跳ねさせ、前へと駆け出していこうとする。

「ま、待って!」

私は止めようとした。というのも、さっきの不毛な白跳さん捜しを繰り返すのはもう御免だったからだ。ひとたび彼女を自由に駆け回らせたら、捕まえるのはひどく難しい。私たちは離ればなれになり、探索どころじゃなくなるかもしれない。

白跳さんに声は届いていないようだった。そこで私は一抹の申し訳を感じながらも、彼女の肩を掴んだ。

「!」
その瞬間、身体を強く前方に引っ張られる。私の焦げ茶のローファーが歪な足取りで数歩踊った。転ばぬようにと彼女の首に腕をめぐらせ、しがみつくと、自分の靴のつま先が床を引きずられるギギギという不協和音の感触がする。

私はこのまま引きずり回されることすら想像した。でも、彼女も流石に足を止めることにしたらしく「なにー?離してよー」と困った声を上げながら、その首を苦しそうに回して、背後の私に視線を送った。真っ白のお団子から伸びたさらさらした髪一束が、鼻先をくすぐる。

「ま、迷子になっちゃうといけないから!」
こちらに向けられるあどけない上目遣いに、負けじ、と私は心を強く持った。

「すぐ見つかるよー」と間延びした声が答えた。なぜか私が慌てていて、白跳さんは落ち着き払っているのだからおかしい。

「見つけるのが大変なの!」

「そーなの?知らなかったなー」
そりゃあ、見つけられる側は知るよしもないよね。

私たちが膠着状態に陥ると、榊くんが深々と長い溜息をついた。
…………うっし、白跳!!!」

榊くんは、白跳さんの前に進み出ると、倉庫の棚から見つけた縦長の玩具の箱をドンッと床に置いた。
その箱が真上に徐々に、徐々に、持ち上げられていくと、積み上げられた四角のブロックの塔があらわになる。

「オレと勝負だ!」

それはジェンガだった。

私は、彼の突然の行動にぽかんと口を開けていた。なぜ今ここでジェンガなのか。私は四半世紀も生きていないけれど、四半世紀はやっていないような古めかしい遊びだ。そのとき、緩んだ腕の隙間から白跳さんが抜け出す。

なにそれー?おうちの中で遊んだことあんまりないなー。」

「もしかしてお前、ジェンガ知らねーのか」

「知らなーい」

「ええッ!!!?もったいねーなァ、人生の9割損してるぜ!?」
榊くんは芝居がかった素っ頓狂な声を上げた。白跳さんから向かってジェンガの真後ろに屈むと、ちょっとその脆い塔をつついてみせる。

「じゃー白跳。オレが遊び方を教えてやるから、一緒に勝負してくれよ。競技じゃ一番かもしれねーけど、コイツはどうだろうな?」

そんな挑戦的な誘い文句とともに、ニヤリ。空色の三白眼が白跳さんをまっすぐ捉えた。

……や、やる。」

白跳さんはこくりと頷いた。スポーツ選手の闘争心に火がついたのか、遊びに子供心をくすぐられたのか、私には判断できないけれど結果として彼女は驚くほど素直に歩いていくと、脆く危ういジェンガの塔を崩さないようにそっと榊くんの傍らに屈んだ。ジェンガの遊び方の説明が始まる。

そのとき榊くんが、陰で小さく手を動かした。とうとうと明朗な説明を展開する一方で、私たちにちらりちらりと視線を送り、指先で白跳さんを示したり私たちを払ったりしている。

今のうちに行こっか。」
裁門さんが私の耳元に囁いた。

榊くんが八重歯を見せて笑う。

私もようやく確信した。榊くんは、身体を激しく動かしたら負けになってしまうジェンガに白跳さんを集中させることで、彼女をこの場に留めてくれるのだ。そして、調査に必要な道具を集める時間を稼ぐつもりらしい。
私は彼の機転に驚きつつ、心の中で感謝の念を送ると、その場を後にした。