DRRV11037
2025-08-19 14:09:28
55991文字
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DRRV:1章探索編

Shoot the Moon


寄宿舎


「さあ、お入り」と当たり前のように三品くんのエスコートを頂戴した私たちは、寄宿舎の中にいた。円形のホールを取り囲むようにして16枚の扉が並んでいる。

「扉に貼ってあるのみゆたちの絵?」

ずっと静かだった形代さんが呟いた。各扉の上には、レトロゲームのキャラクターみたいなイラストが貼り付けてある。よく観察すると、その一つ一つが、この学園で会った皆に似せて描かれている。もちろん私のイラストも見つけることができた。

「僕らのドット絵みたいだね。ぃ、意外と作るの大変、って、聞いたこと、あ、あるんだけど凄いね、これもモノクマが用意したのかな。」

「凄いというか、怖いというか。」と私は俯いた。

「これって16人にそれぞれ個室が割り当てられてるってことだよね?大がかりすぎて恐ろしいよ。そんなに長居させるつもりがあるのかな。」

モノクマが何を想定しているのか、考えるだけでも憂鬱な気分だった。一方、形代さんはフリルに彩られた両手を薄い胸に当てると、細く高い声でゆっくり喋った。

「怖いねぇ。でも、部屋があるのは安心かなぁ。あのね、体育館へ集合を呼びかける放送で、みゆたちのぬいぐるみが吊り下げられたり転がったりしてたのあの子たちも、ここに住まわせてあげたいね。」

ぬいぐるみと遊ぶ可愛らしい形代さんを想像して頬を緩めたのち、私は表情を引き締めた。

「そうだね。私は寄宿舎はぬいぐるみさんたちにあげたいくらいだよ。だって、私たちはあくまでちょっとお泊まりするだけ……皆それぞれ、帰るべきお家があるんだから。」

そのとき、不思議なことが起きた。三品くんが、驚いたような、未知に触れたようなな、戸惑ったような、そしてどこか寂しそうな───目に見えないほど静かに、ごく曖昧な悲しみの表情に変化した。彼のそんな表情を見るのは初めてのことだった。それからまた嘘のように温和な笑顔に戻るまでの間は、蝶の羽ばたきほど短い一瞬のことで、幻みたく思えた。

「ああ、そうだね。皆それぞれに帰りを待つ大切な家族がいる。彼らを悲しませるわけにはいかないよね!……ひとまずは個室の中を確認してみよう。」

「さあどうぞ」と彼は自分の部屋の扉を開け、私たちを内側へと招き入れてくれた。「お邪魔します」なんて口にしながら、私はさっきの不思議な表情について思いを巡らせずにはいられなかった。



ミシナの個室


扉をくぐるとそこは、白、赤、黒を基調とするスタイリッシュな居室だった。

「ぼ、僕の家より綺麗
黒原くんが呆然と呟く。

1部屋あたり15畳ほどの広さで、ユニットバス、サイドボードつきのふかふかしたベッド、一人掛けのソファ、画面の広い薄型テレビなどが備えられていた。まるでホテルの一室みたいで過ごしやすそう。───隅に構えるゴテゴテしたスピーカーつきモニターの存在を除けば。

「ここにも設置されてるんだね。」

学園中どこにいてもこの謎のモニターを見かける。記憶をほんの少し遡れば、モノクマはみんなに体育館への集合を呼びかけるときこのモニターを使用していた。私たちが学園の広大な敷地のどこにいようとも、この機械を無数に設置しておけば、簡単に連絡を通せる。

私がその考えを述べると、三品くんは微笑を浮かべたまま頷いた。
「素晴らしい推理力だ!僕も行く先々でこのモニターを見てきたから、君の考えに大いに同意するよ。一方、こうも思うのさ。このモニターは果たして『連絡』のためだけに作られたのだろうか。ひょっとすると、このモニターの無秩序な表面のどこかに小さなカメラが隠されていて、僕らを『監視』しているんじゃあるまいか……とね。」

「か、監視!?」
私は息をのんだ。じゃあ今も、この機械越しに黒幕が私たちの行動を見つめているのかな

私はなるべくモニターから距離を取るようにした。

「あのぅこれって個室の鍵、かなぁ。」

形代さんが指し示したのは、机の上に用意された銀色の鍵だった。アルファベットで苗字が彫られた金属プレートもついていて持ち主が分かりやすいことも、木の枝のような細いキーハンガーにかけられていてちょっぴりお洒落なことも、今の私にとってはただ腹立たしいだけだった。

「ありがとう。きちんと管理しなければ。」
三品くんは鍵を手に取るとズボンのポケットにしまった。みんなの中に殺人を起こそうとする人はいないと信じてるけど、黒原くんがいる以上、戸締まりには用心しないと。

「服は、替えまで用意されてるみたいだね。」
その黒原くんが何気なくクローゼットの引き出しを開け、しわ一つなく畳まれた衣類を無遠慮に取り出すと枚数を数え始めた。

「上着も、下着も全く同じもの、がそれぞれ6枚ずつ。今三品くん自身が着ているものを含めて7枚になるね」

「だ、駄目だよ黒原くんっ!?人のクローゼットを勝手に覗くなんて。」

私は慌てた。黒原くんが抱える衣類を引っつかむと、まとめて全部引き出しにねじ込み、ぴしゃりとクローゼットを閉めてしまう。モノクマに用意された馴染みのない部屋とはいえ、ここは三品くんの部屋なんだ。許可なく引き出しを開けるのはよくないよ。特にパンツはよほど親しくなった人にしか見せたくないだろうし。そういう意味を込めてムッと怖い顔をし、黒原くんに一睨み与える。

「ごっごめんなさい!?引き出し漁りは勇者と探偵の特権かと思って、ほ、ほんとごめんッ」

黒原くんは、背骨が折れそうなほどの勢いで繰り返し頭を下げた。

「ふふふ、いいんだよ。」と三品くんは微笑んで許してしまう。

ずっとおとなしかった形代さんが、両手を胸の前で行儀よく組み、おずおずと口を開いた。小さな鈴を振るような声が桃色のおちょぼ口からきれぎれに洩れる。

「あのね、16人分の服を替えまでたくさん用意するのはね………、お金もとってもかかるしみんなの体格も知ってなきゃできないの。みんなの身体を採寸してから服を作ると、時間もかかるから。みゆたちを連れてきてから測ってたら、間に合わないはずなの。それにそれにね、」

形代さんが視線を落とした。その声色には不安だけではなく、涙一滴分の悔しさがこもっていた。

「みゆの服は、自分で作った1着だけのものだから、同じものがあるのはおかしいの。型紙だって公開したことないのに」

その言葉が、事実が、耳から入り込むと、なんともいえない気味の悪さを感じた。自分の身体にまとわりつき、擦りついてくるこの布が、黒幕の手によって用意されるところを思い浮かべると……ぞわりぞわりと肌が粟立つ。

「黒幕は僕らの情報をどこまで知っているのだろう?君の美しく愛らしい衣装のデザインを盗み、無断で複製まで。」

「そうだよ何のために、こんなことを」

コロシアイ。

分かっていた。黒幕は人を殺し合わせるためにこんなことまでしたし、どんなことでもするつもりだ。この学園の全てがそれを証明している。それでも目を逸らしたくなるのは、分からないふりをしたくなるのは私の現実逃避に他ならない。

「みゆここで死んじゃうんだ、」

形代さんがすっかり俯いてしまった。狸を思わせる丸い眉が不安に合わせて下がりきり、視線も頼りなく床を向く。形のよい唇がきゅっと引き結ばれた。その様子を見ていると彼女がわっと泣き出してしまうんじゃないかって、心配に

……か、形代さん、君は死なない。誰も死なないよ。どうか元気を出しておくれ。」

三品くんの励ましの声は先ほどよりぎこちなくなっていた。きっと彼自身も今、不安に苛まれているせいだ。今の私たちには「死なない」とはっきり言える確証がなくて、こんな言葉も作家の優しい嘘でしかないってこと、私も彼も分かっているんだ。

………。」

そうだよ、誰も死なせないよ───という言葉が喉から出かかった。出かかったということは、結局引っかかって言えなかったってことだ。気まずさに耐えきれなくなった私は、逃げの一手を打った。

……べ、別の場所探索しよう!そうしよう?」