DRRV11037
2025-08-19 14:09:28
55991文字
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DRRV:1章探索編

Shoot the Moon



私たちは寄宿舎を出て、タイル敷きのメインストリートを歩いていた。三品くんが、あの綺麗な噴水の景色を目指していることはなんとなく察しがつく。そこで形代さんの気を落ち着かせようとしているんだろう。

形代さんを見遣った。さっきと比べて落ち着いているけど、まだ言葉は話してくれない。おかげで私たちのあいだには、気まずい沈黙が続いてしまっていた。何を話したらいいかな?頭のなかで話題を探している。

………形代さんって、さ」
黒原くんに先を越された。彼は、話しの対象であるはずの形代さんを見るでもなく、どこでもない宙にぼんやり目を向けるとこう声をかけた。

………………ロリ、だよね。」

最悪だ。天気でも血液型でもどんな下手な話題でもいいから、私が先に話し始めるべきだったと後悔した。

「小さくて、可愛くって、さぁ。ぉ、お人形さんみたいって、よく言われない?な、なんていうかっ癒やされるっよね。君みたいなのが学園生活に一人いたら。やっぱロリは偉大だなぁって、君を見てるとホントにそう思うよ。ぁ、ぁとおとなしいからぼ、僕なんかとでも、話してくれそうだし」

「く、黒原くん。」

私は制止しようとした。彼女を可愛いと思う気持ちはよく分かるけど、こんな言い方をしたらかえって嫌な思いをさせてしまう。
ところが当の形代さんはこう聞き返した。

「みゆお人形さんみたい、かなぁ?」

「?ぅ、うん」

「ありがとう。あのね、ちょっとフクザツだけど、安心するの。ロリータ・ファッションはみゆのお気に入りだから、そう言ってもらえて嬉しいなぁ。」

形代さんの暗い表情は一転、和やかなものに変わった。あ、あれ?黒原くんのあの発言がなぜだか良い結果を招いたみたいだ。私はいよいよ自分の常識に自信が持てなくなってきていた。

「さっき、今の衣装は自分で作ったものだと言っていたけれど、君の雰囲気にとても似合っているよ。どんなこだわりが?」

三品くんが微笑んで尋ねた。形代さんはマシュマロみたいに柔らかな頬をほわほわと桃色に染めて、どこか恥ずかしそうに、それでもひどく嬉しそうに答えた。

「こ、こだわりはね。ぜーんぶなのっ。テーマは“芸術家のアトリエの窓際に腰掛けるお人形さん”。クラシックに見せたくて、色味が甘くなりすぎないようにくすんだ赤を使ったんだぁ。手首とかお腹とか、締めるところはきちんと締めたシルエットで………胸元のラッフルやベル型スカートのふんわり感を引き立ててるの。どう、かな?」

彼女自身が語るとおり、まさしく人形の風体だった。大きくふっくらした赤いリボンとふわふわした柔らかなフリルで全身をくるみ、繊細優美なレースで飾りつけて、赤いベレー帽をぺたりと乗せた可愛らしい様子ははさながら、はなからこうした作り付けの人形のようだった。

「素晴らしいね!君の解説を聞いて、細部までこだわり抜かれた美しさに改めて感動を覚えたよ。いたいけな愛らしさはもちろんのこと、ドールならではの不滅の美をも思わせるね。」

そう褒めたたえる三品くんの目は、洋服よりもむしろ形代さんの目を見ている。私は三品くんほどの語彙力を持たないけれど「とっても素敵だよ」と伝えてみた。

形代さんは桃の花びらいろに頬を染めると、照れ笑いで「ありがとう」と小さく言った。そうして子供みたいなあどけなく幼い手を胸に当てると、ひとり呟いた。

「お人形さんみたいに可愛くなれてたら、嬉しいなぁ」

そっか。ようやく合点がいった。“超高校級の人形作家”の感性にとって「人形のように可愛らしい」という言葉は最上級の褒め言葉なんだ。