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DRRV11037
2025-08-19 14:09:28
55991文字
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DRRV:1章探索編
Shoot the Moon
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廊下
私たちは体育館を出て、天探さんを先頭に廊下を歩いていた。窓から差し込むひんやりした光が、建物を侵食する植物たちを柔らかく包み込んでいた。
どうやら天探さんは今、私たちと喋る特段の用がないらしく沈黙を守っている。釘山さんもそのどんよりした暗い瞳に何を映しているやら、ぼんやりしている。
私は、沈黙が得意なほうでなかった。黙っているほうがかえってみんなが何を考えているのか読み取ろうと気が焦り、しかも手がかりが少ないので不安のどつぼにはまってしまう。出会って間もない彼らには余計にそうだ。でも、話すにしたって
……
この3人を相手にどんな話題を提供したらいいのか、そもそも言葉を返してもらえるのか分からない。
そんな私を知ってか知らずか、楸谷くんが場の静けさを最初に破った。
「
…
んふふ、駄目です、耐えられませんでした。」
そうして意外なほど茶目っ気たっぷりに切り出す。
「僕黙ってると死んじゃう病気なんです。嘘じゃありませんよ」
私はそれに飛びついた。
「本当に?じゃあ、ホストは天職だね。女の人とお喋りする仕事なんでしょう?」
「ええ。それもお酒を飲みながら。」
「
…
お酒って美味しいの?」
私は高校生だから、まだお酒を飲んだことがない。両親も普段ほとんど飲まないけれど、クリスマスなどの記念日にワインボトルが食卓に置かれると、きまって私はその濃い赤紫の液体をほんの一口味見したい好奇心に駆られる。
一回り大人な楸谷くんは、まるで「可愛らしい問いだな」と言わんばかりに目尻を緩ませ、くすりと笑った。
「それはそれは美味しいですよ。姫が月収丸ごとつぎ込んで僕にくださる最高級のアルマンドが、美味しくないはずはありませんし。職業柄シャンパンをよく頂くのですが、泡立ちが華やかで味わいはフルーティーなので、貴方のような可憐な女性が初めて召し上がるのにもきっと向いています。」
「よろしければ飲みに来ますか?」なんて素敵な笑顔で尋ねられては、どこまでが本気でどこまでが冗談なのやら分からず、私は言葉を濁した。
「あっはは、楸谷さんとこのシャンパンはやたらめったら高そうッスね。」
釘山さんがけらけらと笑い、からかった。
「雰囲気代とイケメン代です」と楸谷くんはにこやかに応じる。
釘山さんが記憶を思い出しながら教えてくれる。
「その手の高級品はたぶん手ぇ出したことないッスけど、ヌトゼロはクソまずかったッス。度数が高くなるほどアルコール臭さが隠しきれなくなってくんスかね」
「へぇ~そうなんだ
…
」
……
ん?
「釘山さん!!?」私は大声を出した。天探さんも思わず振り返るほどだった。
「高校生だよね?み、未成年だよねっ?」
知らない人はいないはずだけど、未成年のはずの釘山さんは法律でお酒を飲んではいけないことになっているのだ。
「恐らく
…
?」釘山さんはなぜか首を傾げた。自分のことなのに、やけに不確かな言い方をする。
「な、なんで疑問形?」
「しょーじき自分が何歳なのか覚えてないんで。」
私は固まった。自分が何歳なのか覚えていないという感覚を、理解することができない。
もしかして釘山さんの頭の中には、誕生日に家族が買ってきてくれたホールケーキに何本蝋燭を立てて、何を願って吹き消して、何等分に切って、どんな味がして、周りがどんな表情で
……
そういった人生の記憶すら残っていないんじゃないだろうか。
「な、なんで?自分自身のことだよ?どうして
…
」
「釘山はどーでもいいことは何でも忘れちゃうんで。多分、どーでもよかったんスかね?」
彼女は他人事のようにそう推測した。光を宿さない紫の暗い双眸にも、血色のお世辞にもよいとはいえない薄い唇にも、一切感情が込もっていなかった。私はどう答えたらいいのか分からなくなってしまった。
「貴方、安酒の味は覚えてるのにですか。」
重くなるいっぽうの話をどう処理しようか考えあぐねた楸谷くんが、半笑いで混ぜかえした。
「あはは!それが釘山の面白おかしなとこッスね!」
釘山さんはまたけらけらと笑う。
天探さんがおもむろに立ち止まった。
「さて、お喋りも済んだところで。」
その言葉によって彼女はお喋りを強制終了させた。
「集中してちょうだいね。探索を始めるわ。」
そこには左右合わせて3つの扉が並んでいた。
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