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DRRV11037
2025-08-19 14:09:28
55991文字
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DRRV:1章探索編
Shoot the Moon
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倉庫
倉庫に足を踏み入れる。
高い天井に届かんばかりの棚が何列も配置されていた。そこにおびただしい数のカラフルな収納ボックスがずらりと並べられている。最上部に置かれた箱にいたっては、取る気が起こらないどころか霞んで姿も見えない。そこに手が届くのは、棚にくるくるとそのほっそりした蔓を巻き付けたアイビーの繊細優雅なカーテンだけだった。
「これは
…
探索しきれるとは思えないッスね。いやたっか!?上の物はどーやって取るんスか!」
「ここにある棚全てを確認するのは骨が折れます。手の届く範囲で少し調べるくらいにしておきませんか。」
楸谷くんが控えめな声で現実的な提案をした。
天探さんは頷き、おもむろにモノパッドを取り出すと現在時刻を確認した。
「その通りね。それじゃあ今から20分間は各自の探索よ。終わったら私が声をかけるから、それぞれの発見を報告しましょう。」
私は一人離れたところで、収納箱をひとつひとつ覗き、倉庫に眠る品々の確認をしていた。たこ焼き器が入っているものもあれば、クラッカーがぎっしり入っているものもある。パイプ椅子が折り重ねられていたり、バスケットボールがまとめてあったり、ロープがとぐろを巻いていたり、いろいろな種類のファンデーションが積み上げられていたりもする。
何でもあるみたい、と私は心の中で呟いた。
でも、肝心の脱出経路は箱の中には用意されていないだろう。脈絡のない内容物を確認するのもだんだん飽きてきて、私はぼんやり高い天井を見上げた。ふと、天探さんの言葉がよみがえる。
「期待を手放せば、失望することもない
…
かぁ。」
確かに彼女は正しいのかもしれない。出口があるなんて思わないほうがかえって気が楽になるのかも。実際、釘山さんはそのようにして、この学園で生活する未来を受け入れている。
…
でも、私にはそんな考え方はできない。出口はあるはずだと根拠もなく信じ込み、傷ついたり焦ったりする方法しか取れない。なぜだろう?自分でもよく分からなかった。信じることが私の心をかろうじて繋ぎ止めている気さえする。
なにげなく覗き込んだ箱の中に、私自身の頭部が仰向けに置かれていた。
「ッ
…
!?」
心臓がドッと跳ねる。私は飛び退いた。
いや、違う。鏡だ。
収納箱の中に待ち構えていた剥き出しの鏡に、それを覗き込む私自身の姿が反射していたのだ。もう一度確認してそう理解した私は、あらためて、自分の姿を見る。
…
酷い顔をしている。
色を失った唇、恐怖を宿したように見開かれた薄い黄色の目。少し乱れた頭髪に弱々しく色を添えようとするクローバーの髪留め。私は、片側に伸ばした三つ編みをそっと撫でた。情けなくなった。鏡の中に映った自分が「これからどうしたらいいの?」と不安げに目で問いかけてくる。そんなの、私が教えてほしいのに。
私は目を逸らした。ほのかに光る鏡面から逃げるように、鏡をすっかり裏返してしまった。
そのとき、天探さんが集合を呼びかける声が耳に入る。これ以上一人でいても良い考えは浮かばないにちがいないから、私はひどく安堵していた。
「それでは、どんなものを見つけたか教えてちょうだい。」
四人全員が集合すると、天探さんがそう促した。
「私が見つけたのは、パーティー用品とか、スポーツ用品とか、ロープとか
…
あとファンデーションもあったよ。本当にいろんなものが置いてあるみたいだね。」
私は短く内容をまとめてそう報告した。
「なるほど
…
ロープやファンデーションは殺人に利用される恐れがあるわね。」
「え?」
そう言われ、遅れて私は気がついた。
ロープを使えば誰かを絞殺することができる。自分の肌と全く異なる色のファンデーションを使えば変装できるかもしれない。私が何気なく見ていた道具でさえ殺人に繋がる可能性があると思うと、落ち着かない感覚だった。
…
でも、人を殺しそうな人なんてどこにもいないし
…
。
次に、天探さんが報告を始めた。
「私が気になったのは掃除に使う洗剤の類ね。日常生活に必要なものだけれど、混ぜると有害よ。それから、ナイフと日本刀を発見したわ。そのまま殺人に使うことができる武器ね。」
ぞわりと、肌が粟立つ感じがした。人を刺し殺すことができる紛れもない凶器だった。
「ど、どこに置いてあったの。そんな危険なもの
…
」
天探さんは、一瞬だけその瞳に、敵意と呼べるほどの強い警戒心を表した。その激情を抑え込んでほんの一言優しく「
…
まさか貴方、教えるとでも?」と言った。
そっか。天探さんから見て、私は──いやきっと他の全ての人が──潜在的な殺人者に過ぎない。それを使って殺人を犯す可能性がある以上、やすやすと教えることはできないのだ。
「
……
ご、ごめん。軽率だったね」
私は目を伏せて謝った。彼女に余計な不安を与えてしまったかもしれない。
釘山さんがにやりとして、正反対の見方を披露した。
「きっと、悪意が微塵もないからこそそんなピュアな言葉が出てくるんスね〜。逆にソレって信頼できるかも」
天探さんは目を伏せた。
「洗剤も武器も、応急処置的に見つけにくくなるよう隠してある。それでは不十分だと私も思うから、今後管理方法を決めることになるでしょうね」
つづけて、楸谷くんが報告した。
「
…
工具を発見しました。バールや金槌などが雑に一つの箱に押し込められていたんです。これはちょっとまずいと思ったので、独断で、少し高い場所の箱と位置を入れ替えて取りにくくしておきました。」
「ありがとう。場所は覚えてるかしら?」
「
…
すみません、大雑把にしか。」
「
…
。分かったわ。」
工具も危険だ。人に向かって振り回せば、殴り殺すことができてしまう。そういう残虐で現実味のない事件が四角いテレビの中で起きたのを知っている。私はそれをぼんやりソファに腰かけて、歯磨きしながら眺めていたんだ。まさか自分が殺人の恐怖に震えるときが来るなんて思わずに
…
。
「釘山が見つけたのはこれッス。」
最後は釘山さんからの報告だ。
ここに戻ってきたときから、釘山さんは両手に何らかのお菓子を抱えている。彼女はそれらを見せながら簡潔に紹介してくれた。
・ゲロ甘ポテトチップス味素麺
・甘すぎてやば~い!ロリポップキャンディおにぎり ~砂糖増量中!~
・~ふるさとの味~ すき焼きゼリー
・辛味の頂点!辛子明太子サイダー
「
………
???ど、どういう
…
こと?」
私はすっかり困惑しながら尋ねた。ある種の凶器ではあった。こんなにたくさんお菓子があるのに、どれひとつとして美味しそうじゃないどころか、見れば見るほど食欲がしぼんでいく。
「面白そーだったんで持ってきました!」
彼女はあっけらかんと答えた。
「はぁ。
……
えっ?」
楸谷くんが釘山さんのほうを二度見した。
「低俗ね
…
」
天探さんが呆れて溜息を吐いた。やれやれと言わんばかりに首を横に振っている。
「貴方、他に何も見つけられなかったの?」
「あー。うーん、記憶に残るようなものは何にも」
釘山さんは曖昧な答え方をした。
「
…
え、これどなたが食べるんですか?」
そう訊いた楸谷くんを釘山さんは逃さず「え、なんで食べない体なんスか?」と袋を近付けた。
「やっ、やめてください!馬鹿が伝染る!」
「これね、触るとIQが5減るんスよ。はい今減ったー」
「は!?」
珍妙なお菓子のことで言い合いを始めた二人を見ていたら、つい笑ってしまった。すると釘山さんは何やら機嫌を良くして、隈に縁取られた瞳を細めてにんまり微笑んだ。
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