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柚子子
2024-10-04 11:19:34
174956文字
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ベリーベリー
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微原作沿 爆豪長編(4)
サイトに掲載している長編の第四章です。今回の話から最終話までのネタバレ(コミックス未収録回)を含みます。
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「にしても、
苗字
とカツキがなぁ
……
」
かりあげくんが、やけにしみじみとした口調で言った。もはや彼は、探検などそっちのけで雑談に興じているように見えた。
「なんですか」
「いや、まじでありえねえ組み合わせだと思って」
「余計なお世話すぎる
……
」
「おまえら、なんで付き合ってんの?」
「そんなのこっちが聞きたいよ」
「どっちから告って付き合うことになった? あ、待った当てるわ。カツキだな。カツキから言っただろ。正解?」
「
……
」
「女子とか興味ねえって顔して、つーか実際そんなようなこと言ってて、蓋を開けてみりゃあ
苗字
だもんなぁ。なんつーか、カツキとタイプが違いすぎて、さすがに誰も予想できねえよ。常に予想の上をいく男、カツキ」
私は黙って、かりあげくんの話を聞く。この人さっきから、結構しっかり失礼だ。まあ、それを言うなら、かりあげくんの名前も思い出せない私のほうが、僅差でまだ失礼かもしれないけれど
……
。
とはいえたしかに、彼らのようなヒエラルキー上位集団から見れば、私など木っ端、つまらない陰キャ根暗ガリ勉でしかない。爆豪くんからもさんざんこの暴言を吐かれまくっているけれど、爆豪くんから発される「根暗」はもはや「
苗字
」と同じく固有名詞化しているので、悪口本来の意味がずいぶん薄まってしまっていた。
私って、やっぱ根暗に見えてるんだ
……
。久しぶりに新鮮な衝撃を受けた。ここのところ、爆豪くんから悪口を言われていないので、衝撃もひとしおだ。
「ちなみにだけど、爆豪くんからは私、一度も好きだって言われたことないからね」
「じゃあ
苗字
から告ったってこと?」
「答弁を差し控えさせていただきます」
「いや、それもう
苗字
からだな」
かりあげくんがへらへら笑った。真実は伝えない。あんまり余計なことをべらべら話すと、バレたときに爆豪くんに殺されかねない。
校舎のわきを歩いていたはずが、いつのまにか、体育館らしき大きなホールの近くまでやってきていた。スタート地点からは、ずいぶん歩いてきたような気がする。人通りは一時減って、今はまた増えている。私たちが入ってきたのとは違う出入口が、この近くにもあるのだろうか。
「けど、言ってももう結構長いこと、カツキと
苗字
付き合ってるよな。中学卒業してすぐくらいからだっけ?」
「そうだね、もうすぐ一年くらい。五月で一年」
「他校で一年は長ェわ」
そういうものだろうか、と思いつつ黙っておいた。世間一般での恋愛というものが、私にはよく分かっていない。同じクラスのりっちゃんくらいしか、彼氏持ちの人間が身の回りにいないというのもある。
「カツキも嫌ンなったらすぐ別れてるだろうしなぁ
……
」
かりあげくんは続ける。
「一年もつってことは、ありえねえけどありえねえなりに、それなりの組み合わせだったってことか」
「もっといい言い方ないの?」
「プリンに醤油でウニみたいな」
「もしかして今、私って醤油に喩えられている
……
?」
「おまえ、自分がプリンでカツキを醤油だと思えるんだ」
「すみません、醤油でいいです
……
」
さすがに爆豪くんを醤油呼ばわりする勇気は、私にはなかった。
そんな話をしているうちに、どうやら敷地の端までたどり着いたようだった。かりあげくんが足をとめる。
「結構歩いてきたな。こっちは裏門か」
かりあげくんの言うとおり、視線の先には、正門ほどではないにしてもそれなりに立派な出入口がある。そのすぐ近くに、避難所の入所手続きをするためのブースが設置されていた。既定のサイズの荷物を持った市民が、不安げな顔をして手続きのための列をつくっている。
「ぼちぼち人集まってきてんな」
「まあ、そうだね。私の家とかもそうだけど、早い人は朝から移動してるわけでしょ。みんなが避難するから自分もって人たちが、そろそろ着くころなのかも」
「なんか嫌味っぽいなぁ」
「そういうわけじゃないけど
……
」
口をとがらせて、私は待機列の人たちを眺めた。
もちろん最初から避難するつもりで、準備をしていたらこの時間になった、というだけの人もたくさんいるはずだ。正式に避難所開設の報道が出たのは昨日のこと。そこから避難生活の準備を始めれば、半日くらいかかったところで不思議なことはひとつもない。
むしろ問題は、いまだ避難所の外に居座り、残っている人たちのほうなのだろう。
手続きを待つ人々の列を眺め、私は思うまま言葉を口にする。
「なんていうかな
……
。単純に、いつまでも避難しない人がそこにいるってだけで、ヒーローの仕事が増えるわけでしょ。そういうこと考えてない人もいるんだよなと思うと、なんかやっぱ遣る瀬無いっていうかさ」
今この瞬間にも、身を粉にして働いているヒーローがいる。ケガが完治しないまま、ヒーロー業に復帰しようとする人たちがいる。
そういう人たちがいるということを、私はもう知ってしまった。だから余計にもどかしいのかもしれない。最善を尽くしている人たちが報われない社会が、あっていいはずがない。
「守ってほしがるわりに、守ってもらうための努力をしないのって、それはどうなの、とは思うよ。脱ヒーロー派の人とかは、もう振り切ってるから逆に分かるっていうか、お好きにどうぞと思っちゃうんだけど」
かりあげくんは、しばらく黙って私の話を聞いてくれていた。やがて私が口をつぐむと、「なんかなぁ」と呟いて、かりあげくんは、くるりとこちらを向いた。
「中学のときから思ってたけど、
苗字
って『ちゃんと』してない人間に厳しいよな」
「えっ、そ、そうかな」
思いがけないかりあげくんの言葉に、どきりとした。とぼけた返事をしてはみたけれど、その指摘には思い当たるところが大いにある。
中学時代から、私はずっとそういう人間だった。ヒーローには向いていない、なれっこないなと思ったのも、興味がない、能力不足という以前に、自分にはヒーロー的な素養、優しさが薄いなと感じているからだ。
「カツキにもそういうとこはあるんだけど、でもあいつはあれでヒーロー志望だから、ちゃんとしてねえやつのケツ叩いて、無理やりにでもちゃんとやらせるタイプじゃん」
「まあ、分からなくはない」
「
苗字
はさ、そういうやつのこと普通に見捨てるよな」
「ごめん」
「責めてねえって。ただ、そうだなと思っただけ」
さっぱりとした口調から、それがかりあげくんの本心であることが伝わってきた。ただ、責められていないと分かっていても、指摘されて気持ちのいい話題ではない。
そう思っているのが顔に出ていたのだろう。かりあげくんは「ふは」と噴き出してから、半笑いのまま話を続けた。
「たとえばだけど、
苗字
が『ちゃんと』しなくなったら、カツキはめちゃくちゃキレつつも、まあある程度までは諦めねえんだよな。俺が中学のときカスなことしてても、別にカツキは見捨てなかったし。けど逆に、カツキが『ちゃんと』しなくなったら、
苗字
は案外あっさり見切りをつけそう、ていう」
「そんな、人の心がないみたいな言い方を」
そもそも、ちゃんとしていない今の爆豪くんなんて、私には想像もできない。爆豪くんは口が悪く言動は粗野粗暴そのものだけれど、しなければならないことを怠るということはしない人だ。
中三の最初あたりから、爆豪くんは変わった。そしてそれ以降、いろんな変化を経ながらも、根っこのところは変わらずちゃんとしている。そういう人だと分かったから、私は少しずつ、爆豪くんに惹かれた。
だからこそ、かりあげくんの言葉には耳が痛くなった。
優しくないと言われるのは、結構堪える。特にヒーロー志望の恋人をもつ人間としては、それはたぶん、致命的な不適格だ。
以前にも少し、考えたことがある。私の行いや態度はこの先、爆豪くんの評価に直結しかねない。自分のなかの価値観だけで、したいことだけしているわけにはいかない。すでにこの瞬間にも、そういう状況は始まっている。爆豪くんがヒーロー科の生徒として、世間に出ている時点で。
私がもんもんと悩み、考えあぐねている間に、かりあげくんはこの話を終了してしまったようだった。視線をきょろきょろさまよわせていたかと思えば、裏門のほうを向いて、ふいに大きな声を出す。
「お、あれシンリンカムイじゃん! 久々に見た。パトロール中かな」
「シンリンカムイ?」
「え、
苗字
知らねえ? このへん管轄してるヒーローなんだけど」
しょっちゅうテレビも出てるよ、とかりあげくん。あいにく、その名に聞き覚えはなかった。視線を前方に向けるけれど、見覚えがあるわけでもない。
「ごめん、分かんない。私、ヒーローあんまり知らなくて」
「まじか。デステゴロは? Mt.レディとか」
「デスなんとかは知らない。Mt.レディは見たことあるかも」
「まじか。そんな感じなんだ」
その場に立ち、私たちはしばらくシンリンカムイを眺めた。
私が名前も知らなかったヒーローが、こうして今も私の暮らす街を守ってくれている。今までのように、知らないままではいられない。私はもう、知っている。知ってしまったから。
ほどなく、シンリンカムイが立ち去ると「俺らも戻るか」とかりあげくんが提案した。避難所の敷地の、ちょうど端から端まで歩いたことになる。探検するところはほかにもまだまだたくさんありそうだったけれど、あまり遅くなっては親も心配するだろう。私たちは来た道を引き返すことにした。
来るときにはまだ入居者のいなかった居住棟にも、ちらほらと入っていく人の姿がある。そのことに、少しだけ安堵する。
自分たちの居住棟に戻る道すがら、
「
苗字
って、話してみたら案外ふつうに話せる感じなんだな」
平然とそんな失礼なことを言うかりあげくんを、私はむっと睨みつけた。だんだん分かってきた。このひと、爆豪くんの友達をしていただけあって、結構いろいろと失礼だし容赦ない。
しかし、そういう相手への対応方法ならば、私もちゃんと習得している。
「そっちこそ。というか中学のときって、もっと尖った感じじゃなかった?」
「あれはほれ、カツキにあこがれてたから」
「爆豪くんはタバコとか吸ってなかったと思うけど」
「それを言われるとなぁ」
がりがりと後頭部をかくかりあげくん。それから「ま、でもさ」と言いながら、仕切りなおすようにパンとひとつ、彼は手を打ち鳴らした。
「避難所生活しんどいだろうしさ。一応俺ら顔見知りなわけじゃん。なんかあったら言ってよ、手伝えることなら手伝うから」
「それは助かる。ありがとう、協力し合ってやっていきましょう」
ヒーローじゃなくても、やれることを。爆豪くんを頼れない場所だからこそ、やれることをやっていくしかない。
となると、さっそくひとつ、協力して解決しなければいけない問題がある。
「あの、それじゃあひとつ、聞きたいことがあるんだけど」
私の遠慮がちな言い方に、かりあげくんが首を傾げた。
「え、はや。なに?」
「本っ当に申し訳ないんだけど、その
……
名前を、教えてもらっていいかな
……
ごめん
……
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