柚子子
2024-10-04 11:19:34
174956文字
Public ベリーベリー
 
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微原作沿 爆豪長編(4)

サイトに掲載している長編の第四章です。今回の話から最終話までのネタバレ(コミックス未収録回)を含みます。

名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前苗字名前名前名前名前名前名前苗字苗字名前名前名前苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字名前苗字名前名前苗字苗字苗字苗字苗字苗字名前名前名前名前苗字名前苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前名前苗字苗字苗字苗字苗字苗字名前名前名前苗字苗字苗字苗字苗字名前苗字苗字苗字苗字名前名前名前名前名前苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字名前名前苗字苗字苗字苗字苗字名前苗字苗字苗字苗字苗字苗字名前苗字苗字苗字名前名前苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字名前苗字名前名前名前名前名前名前苗字苗字苗字名前苗字名前苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字名前名前名前苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字苗字名前名前苗字苗字苗字苗字苗字苗字 爆豪くんとホワイトデートという名目の勉強会をした翌日。私は久しぶりに、午後から光己さんと買い物に行く約束をしていた。
 爆豪くんとの約束よりも、本当は光己さんとの約束のほうが先に決まっていたのだけれど、昨日爆豪くんと会ったときには、意図的にその情報は伏せていた。私が光己さんと交流を持っていることはすでに爆豪くんも知っている。それでもなんとなく、私の口からはあまり言わない方がいいのかなとも思う。どうせ光己さんからは聞いているのだろうし、隠し事をしているうちには入らないはずだ。
 今日は光己さんの運転でモールまで送っていってもらえることになっていたので、時間前にマンションの前におりていった。時間ぴったりに、爆豪くんの家の車が目の前に止まる。助手席のドアを開けると、光己さんはにっと口角を上げた。
名前ちゃんおまたせ!」
「乗せてもらってありがとうございます、お願いします」
「よし、じゃあ出発」
 私がシートベルトを着用したのを確認し、元気いっぱいの光己さんは、号令をかけてアクセルを踏み込んだ。
 春休みも残すところ数日。春休みのあいだにしたいことは、だいたい全部終わっている。あとは新学期が始まるのを待つのみだ。
 光己さんの仕送りの買い出しに付き合うのは、春休みのうちにしたいことのうちの、数少ない残りの項目だった。年が明けてからは私もなんだかんだと忙しくしていたので、光己さんとは三か月ぶりということになる。
 幹線道路を軽快に飛ばしながら、光己さんが言う。
「勝己も名前ちゃんも、もうすぐ高二か。早いもんだなぁ」
「そうですね、なんだかんだ一年あっという間で」
「勝己と付き合ってもうじき一年じゃない? どう、そろそろ我慢できないこととか」
「ないです。いや、なくはないけど、我慢できます」
「なくはないんだ!」
「もう本当、そろそろ根暗って呼ぶのやめてほしい……
 最近ではすっかり慣れてしまって、やめてと言うことも放棄しているあだ名だ。とはいえ不名誉なことには変わりなく、できることならば改めてほしい気持ちはあった。
「爆豪くんはもはや、悪口とも認識してないんだろうなとは思うんですけど。愛称のようなもの、くらいの認識なのかな……
「母親のあたしが言うのもなんだけど、勝己のあれは直んないよ。諦めるか、一生言い返し続ける覚悟しないと」
「そんな……
「直るもんなら、とっくにあたしが直してるって」
 あっはっは、と豪快に笑い飛ばされて、たしかにそれもそうだと思わされた。そのくらい、ものすごく説得力に満ちた言葉だった。
 爆豪くんの所作がきれいだということは、付き合う前からなんとなく知っていた。言動は粗暴なのに、ひとつひとつの動きには粗野なところが薄いのだ。根っこに爆豪家での教育があるのは自明だった。
 その教育をおもに担っていただろう光己さんをして、あれは直らないと言わせる爆豪くんの口の悪さ。これはもう、諦めるしかないのだろう。十六年間爆豪くんを育ててきたひとの言葉は、かくも重い。
「そういえばさ、今日出発する前にちょっと昔のものとか、いろいろ整理してたんだけど。そのときに勝己の小さいときのアルバム出てきてさ」
「わ、アルバム!」
「今度うち来たとき、名前ちゃんにも見せてあげるよ」
「小さいときの爆豪くん……! それはもしかして、めちゃくちゃ可愛いのでは?」
「尋常じゃないほど悪ガキで、尋常じゃないほど可愛かった」
「見たすぎる……!」
 魅惑の提案に、私は大興奮した。同時に、これは絶対に爆豪くんに話してはいけないことだ、というのも理解した。爆豪くんにそんな話をしたが最後、この世から爆豪くんの幼少期の記録はすべて抹消されかねない。いや、その前に抹消されるのは私のほうか。
 そんな話をしているうちに、目的地であるモールに到着した。駐車場に車をとめ、光己さんと一緒に店内に入る。
「勝己から、去年着てたジャージ小さくなりそうだから、新しいの送れって言われてたっけ」
「ジャージって、私服のほうのですよね」
「そうそう。だから食料品の前に服だけ見ていい? あれだったら名前ちゃんはほかのところ見ててもいいけど」
「じゃあ、そうしようかなぁ」
 ついでに下着なんかも買うだろうし、私はその場にいない方がいいだろう。同じフロアに書店も入っているから、そこで時間をつぶしてもいいか。
「それなら私、本屋さんを見てくるので」
 そう言いかけたところでふいに、家電量販店の店頭に置かれている、大型テレビの映像に目を奪われた。
  地上波のどこかのチャンネルを流しっぱなしにしているのだろう。目立つ黄色の値札がついたテレビでは、緊迫した空気のニュースが流れていた。モールの買い物客の何人かがテレビの前で足を止め、食い入るようにニュースを見ている。
 光己さんも、私の視線の先に気付いたようだった。眉をひそめ、画面に見入る。
「あれ、どこかで地震?」
 画面には地面がえぐれ、倒壊したビルが、崩れた家々が、上空から撮影した映像としておぼろげに映し出されている。
 砂塵がカメラの視界をさえぎり、映像はひどく不鮮明だった。時折大きく映像がぶれるのは、空撮ゆえに安定しないからだろうか。
 音は出ていない。画面に映し出された映像と字幕の文字でしか、情報を受け取ることができない。
 周囲を見ると、携帯を確認している人の姿が目立った。詳細を把握するため、ネットニュースを見ているのだろうか。
「どうでしょう……、京都って書いてありますね、京都府蛇腔って」
「京都っていっても、これだけ大きな被害が出るような揺れ方したら、こっちまで伝わりそうなもんだけど」
「車に乗ってたから気付かなかったとか?」
「どうだろ……
 光己さんの顔に一瞬、不安がよぎる。光己さんが考えていることは私にも分かった。大規模な災害があったときには、ヒーローが救助に駆り出される。治安の悪化を防ぐためにも、ヒーローの手を増やすのは重大急務だ。
 となればエンデヴァー事務所からも、たとえエンデヴァー本人が出ていかずとも、サイドキックを何名か派遣する可能性は高い。インターン生の爆豪くんたちにも、もしかしたら白羽の矢が立つかもしれない。その可能性はある。
「怖いねえ、今はどこもかしこも敵犯罪が増えてるし……
 画面に、文字があらわれる。画面上に避難勧告をうながしながら、「ヒーロー交戦中」のテロップが躍る。どくん、と胸が大きく脈打つ。直後、画面がスタジオに切り替わった。音声がないので確証はないけれど、避難勧告の該当地区を読み上げているようだ。見慣れない地名が並ぶなか、ワイプでは依然として更地になった現場の映像が流れ続けている。
「なに? なんか、地震とかそういうのでは、ないっぽい……?」
 誰かの声が、耳に届く。
 どくんどくんと、鼓動がはやまっていく。交戦中、ということは、戦うべき敵がそこにいるということだ。平和を脅かす存在が、そこでヒーローと干戈を交えている。
 いつのまにかテレビの映像から、目をそらせなくなっていた。知らず心臓をおさえるように胸にあてていた手を、ぎゅっと強く握りしめる。
 大丈夫。爆豪くんはまだ学生だ。ヒーロー免許も持っていない、仮免しか持たない学生の身分。だからこんな、超ド級の災害みたいな現場の最前線に、爆豪くんがいるはずはない。テレビにうつる、砂塵でけぶるその先に、爆豪くんがいるなんて、そんなはずはない。
 分かっている。分かっているのだ。
 分かっているのに、胸騒ぎがおさまらない。
 全身の震えが止まってくれない。
名前ちゃん」
 腕をつかまれ、はっとした。やっとのことでテレビ画面から視線を剥がす。光己さんが、真剣な顔をして私を見ている。
「大丈夫?」
……はい」
 答える声が掠れていた。喉がからからに乾いている。舌が張り付いてしまったように、うまく声を出すことができない。それでも、光己さんの声で自分の感覚が戻ってきた。
「すみません、なんか、近しい人間にヒーローがいるって、こんな感じなんですね……
「ね、本当に。慣れないよ」
 光己さんの言葉に、私はうなずいた。
 雄英襲撃から始まり、林間学校での拉致事件。先日の泥花市での事件もそうだ。大きな事件が報道されるたび、そこに爆豪くんがいるのかどうか、いたとして無事でいるのか、巻き込まれていないのか、ケガをしていないのか、居ても立ってもいられなくなるのは私だけではない。むしろ肉親である光己さんのほうがずっと、どうしようもない不安でいっぱいのはずだ。
 いつのまにか、店頭の大型テレビの前には人だかりができていた。携帯を確認している人の姿も目立つ。
 画面が見やすいよう、光己さんとともにテレビ画面に近づいた、そのときだった。
 唐突に、テレビの画面が切り替わった。上裸……しかし継ぎ接ぎだらけの皮膚の、異様な風体の男がひとり、上等なしつらえの室内で椅子に腰掛け、カメラに向かっている。
 荼毘、と居合わせた客の誰かが小さくつぶやく。荼毘。たしか九州の事件のときにも姿をあらわした、敵連合のメンバー。
「え、ていうかこれ、なに? 蛇腔のニュースは?」「なんで荼毘うつってんだよ」「テレビ局がうつしてんの? どういうこと?」「や、そういうわけじゃないっぽい」「まじ? 電波ジャックってこと?」「荼毘なんか喋ってない? 音出ねえのかよこのテレビ」
 口々に言う人々の声を聞きながら、私はスマホをかばんから取りだす。SNSを確認すると、配信サイトのURLつきの投稿がタイムラインの一番上に出ている。
 指先が震える。光己さんが隣から、私のスマホの画面を覗いていた。
 URLをタップし、外部サイトを開く。今まさに目の前のテレビ画面に映し出されているのとまったく同じ、荼毘の映像が流れた。音量を上げ、彼の言葉が聞こえるようにする。
 まわりの客たちも私と同じように、みな配信サイトを開いていた。あちこちから荼毘の声が再生され、重なって、響く。
 敵連合の荼毘が、ナンバーワンヒーローであるエンデヴァーを告発していた。
 敵が、ヒーローを。息子が、父親を。
「うそじゃん」「まじ? やばい」「エンデヴァーカスすぎる」「これはさすがに……」「いや言うて荼毘を信じる根拠もなくないか?」「そもそも荼毘ってなんなんだよ」「あの皮膚、まじなんかな?」
 ざわめきが耳に届く。エンデヴァーへの糾弾、荼毘への不振、混乱。けれど、私の頭はまったく別のことを考えていた。
 今この状況で、荼毘がこの映像を出す意味。悪意と憎悪の煮凝りのような告発映像は、どこからどう見ても、エンデヴァーのイメージに最大のダメージを与えることだけを目的にしている。
 この状況と動画を、エンデヴァーが何の対策も講じず、垂れ流しにしているのはなぜか。エンデヴァーやその周囲の人間が、その対策にまで手を割くことができない状況とは。
 ニュースで繰り返し流れている避難勧告と、崩壊した街の映像。
 エンデヴァーがもしもその場に、最前線にいるのなら。
 エンデヴァー事務所のインターンである爆豪くんも、その場にいるのでは?
 画面にはおぞましい殺人のシーンが映し出されている。ナンバーツーヒーロー・ホークス。滔々と語る荼毘の声が、あちこちから聞こえている。あちこちの端末から、荼毘が語りかけている。嫌だと思うのに、視線が画面に吸い寄せられているみたいだった。手が携帯を離せない。呼吸が浅く、はやくなる。
 高い電子音が聞こえ、意識を現実に引き戻された。光己さんがかばんから携帯を取り出す。
「ごめん、ちょっと電話出るね」
 どくん、と。また、心臓が大きくはねる。こわばった顔で電話を受けた光己さんが、しきりに頷きながら電話の向こうの誰かと話をしている。
 光己さんの顔が、みるみる蒼褪めていく。ほどなくして、電話が切れた。光己さんが、真っ蒼な顔をこちらに向ける。
名前ちゃん悪いんだけど、」
「爆豪くんですか」
 光己さんの言葉を遮って、気付けば私は問いを発していた。
「爆豪くん、いたんですか」
 光己さんは一瞬、瞳を揺らがせる。けれどすぐ、はっきり一度うなずいた。
「ケガの程度はまだ分からない。電話は雄英の校長先生からだった。事態はまだ収束していないけど、この後勝己が病院に搬送される可能性があるって」
「病院って」
「搬送先を教えてもらった。今からできるだけ早く、安全にじゅうぶん注意したうえで、最速で来てほしいって」
 その言葉に、背筋が凍り付く。それではまるで、一分一秒の遅れが命取りになるみたいではないか。少しでも遅くなれば最悪のときに間に合わなくなる、そんな連想をさせる残酷な物言い。
 足元から冷たい恐怖が這い上がってくる。光己さんはどこかに連絡していた。たぶん、爆豪くんのお父さんだろう。その通話が終わるのを待ってから、私は言った。頭のなかは真っ白だった。
「私も連れて行ってもらうわけにはいきませんか」
「でも、」
「すみません、でも、このまま帰ったら頭がおかしくなりそうで」
 本当はそんなことを言っている場合ではないと分かっている。私は爆豪くんの恋人だけれど、結局のところそれ以上ではないのだ。おまけにまだ未成年。ついていったところで、足手まといにしかならないのは分かっている。
 それでも、今この場で光己さんをひとりで送り出すなんて、そんなことはできるはずがなかった。爆豪くんの安否も分からないまま、ひとりで家に帰るなんてできるはずがない。
 光己さんは戸惑ったように一度口を開き、閉じる。
 けれどすぐ、決心したように大きく私にうなずいて見せた。
「うん、とにかく行こう。おうちに連絡は絶対にするんだよ」
「分かりました」