【創作|馬軸】春雷 芽吹- 春の嵐

※支部からの移植版です。文面そのままです。第一話~第三話までのクラシック編。

Attention
・この作品は競走馬とそのジョッキーを中心に描いていますが、実在する団体とは何の関係もない創作作品です。
・実際の競馬に関してわからない部分は調べていますが、事実と異なる点やありえない点もあるかと思います。そこについては創作だと割り切ってお楽しみいただければ幸いです。
・実在する競走馬をモデルにした競走馬が登場します。名前がもじってある場合があります。


皐月賞__ 一週間前 最終追い切り


皐月賞が三日前に迫った木曜日。今日は取材陣を入れての追い切りが行われる。私はロジェの背中で細かく震えながら死ぬほど緊張していた。
いやぁ取材陣がおかしいぐらいおる。めっちゃ写真撮るやん。「白綾さん目線お願いしまーす」やないねん。なぁ。自分らこないだ私が負けとったとき「全戦全敗の騎手、また黒星」とか書きくさったやろ!! なぁ!!
向こうからどよめきが起こる。ダートコースを悠々と走っていたのは『鉄骨娘』フジサワコネクト。銀色に輝く芦毛の馬体に、額に流れる流星が特徴的な馬だ。そんなフジサワコネクトの背に乗るのは今最も注目されている騎手・瀬川迅一。私の同期であり__天才と持て囃される望まれた騎手。
 
「白綾!」
「げっ……
「皐月賞、ロジェールマーニュと出るのか!? 嬉しいよ、俺お前とGⅠで戦いたかったんだ!」

おお、と記者陣が周辺で写真を撮り始める。おいコラ、私知ってんねんぞ。どこぞの新聞が「同期でもここまでの差……」とかクソみたいな煽りで私の連敗記録書いてたの知ってんやぞ。
ほんまにこの男も記者らも、と思いながら私は必死で怒りを飲み下して__

「けど同期でもここまで違うもんかね」

飲み下して____、

「確かにな。GⅠ勝率八割越えの瀬川と、全敗の白綾。何の差だよ?」
「白綾は身長がな……一八〇ぐらいあるだろ? 高すぎるんだよ」
「あ~~……それはあるな。騎乗能力はまぁ、って感じだけど……
「ロジェールマーニュの膂力に振り落とされそうだよな」

飲み下して____、飲み下そうとして__飲み下せなかった。

「~~~~…………い」
「? ……どうした、白綾。腹痛いのか?」
「うるっっっさいねんどいつもこいつも!! 皐月賞はロジェールマーニュが勝つ!! いいから黙って走れやこのドテカボチャ!! バーカバーカ!! ハゲ!!」
 
私はロジェの腹を軽く足で押して走るように合図する。その合図と同時にロジェは加速しウッドチップコースを蹴り飛ばしながら背後で控えめに「えっ……ええ~~~~!? あっ、ちょっ、待てよ白綾! なぁ~~~~!」と叫ぶ瀬川の声を聞いたが全部無視する。

悔しかった。何度も負け続けるたびに忘れかけていた、馬を勝たせてやれないというやるせなさを突然思い出した。
もう負けたくない。あの無自覚嫌味天才騎手を、一発どついてやりたい。後ろをちらりと見れば指でグッドマークを作っている国美さんが目に入った。

騎手である私にできることは、この大逃げ馬を皐月賞で勝たせること。国美さんを、皐月賞を勝った調教師にすること。渚ちゃんに勝利の味を知ってもらうこと。
そして何より私自身の為だ。


『おい、后子』

ぶっきらぼうで滅多に笑わん私の親父が、道頓堀を飛びだした時言った。くたびれた白衣に、なぜか白衣の下はスウェットかカーキ色のツナギを着ていた。
ドクタースクラブなんざ着てるとこは見たことあれへん。ぼさぼさの髪を適当にくくって、無精髭が生えていて。横に並ぶと似ても似つかん親子やとよく言われた。

『お前……GⅠ勝つまで帰ってくんな』

負け続けている私が、苦労かけた親父に返せるものは勝利だけ。皐月を超えて、ダービー獲って、菊を制覇する。そうやって__ロジェを、最強の馬にしてみせる。