【創作|馬軸】春雷 芽吹- 春の嵐

※支部からの移植版です。文面そのままです。第一話~第三話までのクラシック編。

Attention
・この作品は競走馬とそのジョッキーを中心に描いていますが、実在する団体とは何の関係もない創作作品です。
・実際の競馬に関してわからない部分は調べていますが、事実と異なる点やありえない点もあるかと思います。そこについては創作だと割り切ってお楽しみいただければ幸いです。
・実在する競走馬をモデルにした競走馬が登場します。名前がもじってある場合があります。




『ちょっとアクシデントもあったようですが、無事枠入りが終わりまして……係員が退避します。
最も「はやい」馬が勝つ、第××回皐月賞__スタートが切られました!』

日曜日とあって、その道頓堀にある動物病院は休みだった。しかしその場には老若男女総勢十名近くが病院の待合室にある大きなテレビに齧り付いて皐月賞の中継を見ている。
その人垣の中心には無精髭に白衣、手には競馬新聞と赤ペンというどこからどう見ても競馬好きのおっさんにしか見えない男がいた。
しかしこの男、白綾后子の実の父である。皐月賞に娘が騎乗した馬が出走するとあってリアタイせんとしていたのだが、どこからか情報を聞きつけた地域住民が動物病院に集結しみんなで競馬観戦となったのである。

「なぁ先生、后子ちゃんの馬って……
「二枠四番……ん? ちょっと待て。今ハナを一、二、三……八馬身!? 八馬身リード!? おいおいおいおい、何つう騎乗してんだあのバカ娘、それはねえぞ后子!! 無茶苦茶過ぎんだろ!?」
「何でもええわねもうそんなん!! 勝てばええんよ勝てば!!」
「でも掛かってる感じじゃないわ。どっちかっていうと……これロジェールマーニュのペースっていうか……
「冗談だろ…………勝てんのかよ、これ。勝ったらやべえぞ。単勝オッズ六七.五倍だぞ……!? 一番人気のフジサワコネクトは最後方にいんな……いや」
「フジサワコネクトって追い込み脚が強かったろ!? 差しにくるでこりゃあ……うわぁ____っ!! 逃げろ后子ォ____!!」
「ちょうるさいねんお前!! 実況聞こえねえだろ!!」

后子の父と道頓堀の住民たちは騒ぎながらレース展開を息も忘れて見守る。だが一つの確信と信頼があった。
白綾后子は負け続けても諦めなかった。どれだけ嘲笑されようと、不運に見舞われようと、決して投げ出して諦めなかった。
だから今度こそは、勝利の女神も微笑むはずだと__そういう確信が心に満ちていた。
父親はスマートフォンに映るネット投票画面を点灯させたまま握りしめる。


(勝て。后子。……馬が誇れる騎手になれ)

スマートフォンの画面には単勝一万円で購入された、二枠四番ロジェールマーニュの馬券があった。