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アスナショウコ
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【創作|馬軸】春雷-極光
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【創作|馬軸】春雷 芽吹- 春の嵐
※支部からの移植版です。文面そのままです。第一話~第三話までのクラシック編。
Attention
・この作品は競走馬とそのジョッキーを中心に描いていますが、実在する団体とは何の関係もない創作作品です。
・実際の競馬に関してわからない部分は調べていますが、事実と異なる点やありえない点もあるかと思います。そこについては創作だと割り切ってお楽しみいただければ幸いです。
・実在する競走馬をモデルにした競走馬が登場します。名前がもじってある場合があります。
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とある孤高のステイヤーがいた。
これも私が生まれるよりかは前の事なので、直接そのレースを見たわけではないからそのすごさを肌感覚で知ることは叶わない。
だが、今日の瀬川とフジサワコネクトといえばその言葉が似合い過ぎるほどに集中していて、背後を向けば喉元を食いちぎられるのではないか、と錯覚するほどにはぞっとした。
ただ一つの気配。
ただ一人が発する異様なまでに砥がれた気配が、控室の室温を二度ほど下げているような気がした。いつもなら面倒なほど私に話しかけてくる瀬川がその気配の主である事は容易にわかる。
単純な話、こいつは今まで格下やと思てたやろう私に大差で負けて死ぬほど悔しがっていた。せやからまぁ分からんでもない。今まで無意識下で小馬鹿にしてた奴にハナを奪われて、挙げ句の果てにそのまま逃げ切られるんやから。
正直スノーホワイトとGⅠスプリンターズステークスを快勝したさかい、調子に乗ってる自覚はあんねんけど。ロジェ以外の馬に乗っても勝った、っていう自信もついたし。スノーホワイトも「うぃぃ~~~~勝ちました~~~~」つって舌出してべろべろばぁみたいな感じでハチャメチャに調子乗ってたし、私もさすがにこうも勝ちが続くと調子に乗る。
そこに冷や水どころかキンキンの氷水とドライアイスにプラス液体窒素ぶっかけてくるような、そんな気配を携えているあの人馬にはさすがに恐れ戦くわ。息止まったわ。肺が職務放棄してたで。
ぶっちゃけ瀬川と直接ぶつかるのは今年が初めてで、そんな徹底マークされると思ってへんしこっちは「私とお前はライバルや。勝負やで」やなんてそこまで思ってへんから怖すぎて泣きそうになった。
控室の外で国美さんとひっつきながらガタガタ震えとる。携帯電話のバイブレーションかっちゅうぐらい震えとった国美さんはさっきからのの字を必死に飲んでいた。
しかしロジェといえば、渚ちゃんが一人で引っ張るパドックでもめちゃくちゃ落ち着いてて菊花賞だから~とかそういう気配も一切ない。ただ己の走りをするだけ。そういう泰然自若とした雰囲気を纏っている。
「ロジェがブレてへんのが唯一の救いや
……
」
「ほんとだよ
……
怖すぎだよ瀬川とフジサワコネクト
……
なんだよあれ
……
」
「国美さん大丈夫? 生きてる?」
「何とか生きてる
……
けど。后子さん。フジサワコネクトとしては
……
そりゃああんだけ集中もする、か
……
」
国美さんはそんなことを言ってネクタイを少し緩めた。菊花賞の出走まではまだ時間があるものの、この京都競馬場には十万人を超す観客が詰めかけている。熱気が高まり、期待感に押しつぶされそうになる。刻一刻と時計の針が進み、菊花賞の出走時刻が迫るたびに胃の中身がせり上がってくるような錯覚に襲われる。
だが____。
「鉄骨娘・フジサワコネクトが二冠か、黒の紳士・ロジェールマーニュの二冠か
……
どっちが勝っても名勝負だ。気負い過ぎんでくれよ」
「何言うてんねん国美さん。まさか手心加えろ、やとかつまらんこと言わへんよな」
「まさか。言うわけねえだろ。いつ俺がそんなこと言ったよ」
「だってどっちが勝っても名勝負やなんて言わはるから」
私は笑って国美さんの肩をどつく。声が震えているのがばれたかもしれん。にやりと悪そうな笑みを浮かべる国美さんは多少緊張がほどけたようで、一度息を吐きだして吸う。私も一度生唾を飲み込んで息を吐きだせば、うるさくしていた心臓は落ち着いてくれたようだった。そろそろ時間だ、と二人で地下馬道の方へ向かいながら、腕に着けていた髪ゴムで降ろしていた髪の毛を縛る。
安いシャンプーで洗う金色の髪はひどく荒れて枝毛まみれだ。私は手袋を嵌めたまま人差し指でぐるぐると横髪を指に巻き付けてみる。ふと__同じ金髪碧眼の母親のことを思い出した。髪が伸びると、あの面影にどうしても近づく。それが嫌で昔は髪を短くしていた。
私と父を捨てた母。ひとり、父以外の男を選びどこかへ消えた母。今どうしているだろう。ロジェールマーニュの名声が高まり、競馬に明るくない人でもロジェールマーニュの名を知っている今の状況ならば、自然と鞍上にいる私の名前もニュースで出ることだろう。
もし、その過程で私の名前が彼女の目に入ったなら__どうだろう。私を忘れているだろうか。
覚えているだろうか。
それより今はレースに集中しよう。私にはすべきことがある。
京都競馬場____芝・三〇〇〇メートル。
菊花賞。最も〝強い馬〟が勝つとされる、クラシック路線最後の舞台。
ロジェールマーニュの前を、誰にも走らせないこと。
ロジェールマーニュという競走馬のポテンシャルを、存分に引き出すこと。
ロジェールマーニュを、「無敵の紳士」たらしめること。
ロジェールマーニュと共に、勝つこと。それが今の私がやるべきことだ。
だがほんの少しだけ揺らぐモノがある。私の心の奥に眠っていた何かが__こちらを覗いている。私に問いかける。
本当にこのままでいいのか。ここから先は違う。
もう嘗ての私ではなくなった。負け続け、嘲笑に慣れ負けることは当然だと受け流す私ではない。負け続け、石を投げられた私ではない。全敗の騎手と嘲笑された私ではない。
常に求められる。ロジェールマーニュという競走馬に相応しい騎手であることを。強い馬を勝たせる騎手であることを求め続けられる。勝ち続けることを期待される。女性騎手としての偉業を成すことを求められ、期待され、そしてその振る舞いが出来なくなれば再び私には石が投げつけられるだろう。
石を投げられ批判にさらされるのはいい。それは私だけの問題だ。だが、馬にその矛先が向く事態になることだけは避けねばならない。
もう二度と「白綾后子が鞍上なら負ける」など、そんな評価を馬に浴びせるわけにはいかない。
その重圧が私の両肩に__
「うぉっロジェ」
いつの間にか真後ろにやってきていたロジェが私の背中を鼻でつついた。柔らかい鼻先が私の背中に触れている。じっと私を見つめる紺色の瞳が、私に優しくも厳しく訴える。
乗れ、と。__必ず勝つから、ただ乗れ、と。走ることを愛するロジェが私にただ乗れと言う。
そう。迷う必要などどこにもない。私はただ今までと同じように、ひたすらに方向指示器に徹する。ロジェをただ導き、勝利への最短距離を案内するだけのこと。
馬が誇れる騎手になるために、馬に溶け込むような騎乗をして。私たちはただ、先頭を譲らないという確たる意志さえあればいい。この菊花賞という大舞台で、ロジェールマーニュという馬の強さを叩きつけてやればいいだけのこと。
「そうやね。
……
そう。誓った」
誰も、この馬の前を走る事など罷りならん。そう誓ったのだ。その誓いを果たすために菊花賞までやってきた。ならばロジェの思いに応えないなど嘘だろう。
「
……
菊花賞を勝つのは私らや。
……
私は、私を超える」
(____勝つよ、后子。
僕は君を乗せて、スピードの向こう側まで駆けてみせる)
強烈な意志が私を燃やす。青い炎がゆらりと揺らめいた気がした。
発走二十分前。本馬場入場が始まった。
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