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アスナショウコ
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【創作|馬軸】春雷-極光
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【創作|馬軸】春雷 芽吹- 春の嵐
※支部からの移植版です。文面そのままです。第一話~第三話までのクラシック編。
Attention
・この作品は競走馬とそのジョッキーを中心に描いていますが、実在する団体とは何の関係もない創作作品です。
・実際の競馬に関してわからない部分は調べていますが、事実と異なる点やありえない点もあるかと思います。そこについては創作だと割り切ってお楽しみいただければ幸いです。
・実在する競走馬をモデルにした競走馬が登場します。名前がもじってある場合があります。
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その騎手は不思議なヒトだった。
今まで「好きに走っていい」だなんて言われた事はなかった。大概僕と騎手は意見がぶつかる。それが普通だったし、面倒だったので僕側から騎手の指示を振り切ってきた。
僕は一番前を走りたい。でも騎手は馬群の前目で抑えたがる。正直、体が他の馬より大きい自覚はあるし体力が有り余っているのもわかっている。
だから、一番前を走りたかった。他の馬の間を縫うように走るのは窮屈で苦手で好きではなかった。騒がしいのだ。気持ち的にも、周囲の景色も。風を切って走るのが心地いいのは認めるが、僕はひとりで遥か彼方へ駆け抜けるのが好きだ。馬郡に埋もれるのはどうしても好きではないし好きになれない。
芝を蹴って、最後に「本当に好きにしていいのか」と問うつもりで動く。彼女は僕の背に乗ったまま言った。
「ロジェ、合わすさかい好きに走ってや」
好きに走る。どんどん前へ、爆発的な加速で風になるつもりで走ること。馬群からずっと抜け出した状態で、最初から最後までトップスピードを維持して走る事。
今まで僕に乗っていた騎手よりも細身の彼女は、驚くほど軽かった。何も乗っていないようで、それでいて僕の意思を邪魔せず正しい方向へ、無駄のない動きを導いてくれる。
(すごい)
脚が想像を超えるほどに軽かった。どこまでも走れると錯覚した。最終コーナーを目が捉える。その少し手前でまだ加速できると思いさらに強く芝を蹴って加速した。加速のタイミングで完璧にコーナーを導いた彼女は、背中で楽しそうに「はは
……
!!」と声を上げた。
(僕も、楽しい)
競馬で勝つための調教。勝つ事だけが、僕の存在意義なのだと仔馬の時から思っていた。だけど、楽しかった。このスピードでずっと走りたい。彼女は僕の意思を優先してくれるが、徹底的に僕が走る上での無駄な動きを減らすよう動静してくれる。
騎手と意思がぶつからないのは初めての事だった。気づけばゴールしていたのでスピードを緩めて走り、常歩に切り替える。
調教用コースが異様な静けさに包まれていた。もしかして彼女が怒られるだろうか。僕に好きに走っていいって言ったから。好き勝手に走ったのは僕だ。怒られるとしたらおかしい。
「何だ
……
この、時計
……
」
時計。僕が走った時間。多分速かったんだろうが当然だ。今まで使ってこなかった本来の脚を使ったのだから伸びるに決まっている。まだ余裕で走れるよ、と嘶いてみた。
奇妙な沈黙が周辺に漂っていたが、背にいた彼女が僕を褒め始める。それは嬉しいけどこの形成された何かをどう回収するんだろう。そう思っていれば国美も乗っかって僕を褒め始めた。
(
……
彼女、后子って名前なんだ)
国美は彼女を「后子さん」と呼んだ。仲良いんだろうか。モヤっとしたので僕は国美の帽子を強奪した。抗議の意思は示さないと多分こいつは調子に乗る。
「あっこら返せ! ロジェ、食うな!」
(
……
后子は僕の。お前のじゃない)
「おい!?食うな食うな!!腹壊すぞ!!
……
あっ。お前もしかして屋根と俺が仲良く喋ってたからヤキモチ焼いたのか」
(
…………
コイツ)
ガン!!!!とすごい音を立ててコース横の柵を蹴る。流石に国美も焦ったのか「ごめん!ごめんって!」と謝るが、僕の背にいた后子は特段何も言わなかった。先ほどから黙って何かを考えているようだったので、僕は大人しくする。暫くして后子は厳かに口を開いた。
「ロジェ」
僕は声のほうへ首をかしげる。
決意の滲む表情で后子は続きの言葉を僕へ告げた。
「____私と一緒に、クラシック制覇しよ」
吹き抜けた風が、后子の金色の髪が揺らして隠された半分の表情を見せた。不安でいて高揚と、そして期待と衝撃の入り混じった複雑な表情が浮かんでいる。
后子の本心が見えない。
きっとその三冠制覇は誰かの願いだろう。彼女自身の願いは何だろうと思った。
けれど、闘志の燃え滾るその美しい表情が、いつまでも僕の中で焼き付いて消えなかった。
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