幸せの森のお話集

10年以上前に一年間ほど書き続けた、ハッピーツリーフレンズの二次創作集


  
なかよしなひとたちの話
 
 Case.1 K&G あかいいと

 ねぇねぇ、と弾んだ声がカドルスを呼ぶ。
「なに?ギグルス」
「運命の赤い糸って知ってる?」
分からなくて首を傾げると、彼女は楽しそうに教えてくれた。曰く、運命の相手と決められた人同士は小指が赤い糸で繋がっているのだと言う。運命の人とはすなわち恋人だと言うのがギグルスの主張だ(カドルスは宿命のライバルとかも『運命の相手』になるんじゃないかなぁ、と思ったけれど黙っておいた。沈黙は時として美徳だ)。
「わたしの赤い糸は誰につながってるのかなぁ」
今日はバレンタインディなんだし運命の人にあげたいよね、プレゼント。
ギグルスはうっとりと目を閉じる。
「モールさんは紳士だし、ラッセルもワイルドな大人の魅力よね」
「あ、やっぱり年上ばっかりなんだ……
「ランピーは……、うん、背が高くて、見た目は……素敵かな……
歌うように弾んだ調子で、指折り名前を挙げていくギグルスと笑うしかないカドルス。
モーマットさんはミステリアスだし、ハンディーはペチュニアのだからダメだけど……
「あと、フリッピー!」
「えッ!フリッピーも!?覚醒したら殺されちゃうよ!?」
分かってないなぁ、とギグルスは何故か得意そうに言った。
「普段は優しいけど、ふとしたことで垣間見える危険な顔っていう二面性がいいのよ」
危険な男って他にない魅力よね!って同意を求められてもカドルスは困る。基本的にも応用的にもカドルスは危険な男に殺される側であるのだから、魅力もなにも分かったもんじゃない。分かる前に死んでいる。
それにしてもギグルスの理想は高い。つまるところ、ギグルスの運命の相手になるためには「じゃあ僕は紳士でワイルドで背が高くて危険な二面性のある大人の男にならなきゃいけないの?」
それはちょっとハードルが高すぎる。僕は一体何からどうすりゃいいのさ、とカドルスは頬を膨らませた。
なにバカなこといってるの。とギグルスが呆れたように笑った。
「そんなカドルス、カドルスじゃないじゃない」
カドルスはそういうのよりもちょっと可愛い王子さま系を目指した方がいいと思うよ、と彼女は言う。
でもそれってギグルスの理想とは違うじゃないか。少し泣きたい気分だ。「もう今日は帰ろうかな」とカドルスが呟く。
「じゃあその前に」ギグルスが差し出す小さな箱。なにかちょっといい匂いがする。
「ここにギグルスちゃん会心の作のチョコレートケーキがあるんだけど」
おひとついかが?可愛いうさぎの王子さま。
 
 

Case.2 F&F もらったふたり

ホールケーキだ。どこからどう見ても欠けることのない、まんまるのチョコレートケーキ。
今までフリッピーが見た中で一番すごいと思う。だって二段重ねだから。
なぜか持って来た当のフレイキーまでが困惑顔でそれを眺めている。
「フレイキー?これ、キミが作ったの?」
すごいね、としかフリッピーに言えることはなかった。さすがの帰還兵だって、これは本当に降参するしかない。
しかし、フレイキーは頭をふるふると左右に振った。
「ギグルスとペチュニアにもらったの」

なんでも、ギグルスとペチュニアの二人でバレンタイン用のチョコレートを作っていたら産み出されてしまったものらしい。
「えへへ、ちょっとテンション上がりすぎちゃった……
「うん……。でね、よかったらフレちゃんとフリッピーと軍人さんにどうかと思って」
「そうなの!フレイキーにはクッキーとか色々分けてもらってるし、フリッピーだって遊んでくれるし、軍人さんは……、まあ、あれだけど……
ギグルスの目が少し泳いで、ペチュニアは困った顔で笑った(フレイキーがそう語ったのではないが、そう外れた予想でもないだろう)。
とにかく、そのような経緯で、このケーキは彼らの前に君臨することになった。
でもね、お嬢様がた。三人分と言われましても、「僕も俺も身体は同じなんだけどなぁ……」つまり胃袋は一人分。確かにクマの端くれだから、皆よりはたくさん入りますけど。

二人の前に君臨する大きな大きなチョコレートケーキ。
ギグルスについては知らないけれど、ペチュニアが作ったなら美味しいんだろう。いつもハンディーがそう言っているから(まあ、彼の味覚がどれだけ確かなのかと言われたら知らないけどね)。
「あんまり大きいし、余ったら捨てたって構わないから」とペチュニアは言ってくれたそうだけど、せっかく貰ったものを残して捨てるなんて失礼は絶対にしては駄目だとフリッピーは思う。『覚醒』してしまえば申し訳ないことしかしないんだから、せめて普段は礼儀正しく!がフリッピーの信条だ。それに、食べ物を粗末にしてはフレイキーの教育にだって良くない。
「フレイキー」
フリッピーは、本当に久しぶりに軍隊式の発声法で声を出す。何事も気迫は大切だ。呼ばれたフレイキーもバネみたいに勢いよく背筋を伸ばした。
「せっかくだし、二人で頑張ってみよう」
「うん」
どうしても食べきれなかったらドントくんも呼ぼうか、と本気半分で言ってみたら、フレイキーがなかなかの勢いで首を縦に揺らした。そんなに振るのはやめなさい、頭が取れちゃうから。
 
 

Case.3 F&S とっととくたばれ


「また、これかよ……
横たわったチビはピクリとも動かない。目標は完全に沈黙。心肺機能停止。当たり前だ。この俺が仕留め損ねる訳がない。
窓の縁に座って、「今日も絶好調みたいだね、覚醒くん」何がそんなに嬉しいのか、馬鹿みたいに(いや、違う。正真正銘の馬鹿だった)上機嫌なスプレンディド。笑い声が感に障る。額を狙って投げたケーキサーバーはヤツの目からでた光線で蒸発した。
「Shit! Screw you!」
「ほら、そんなスラングなんて使っちゃあフリッピーくんにまた怒られるよ」
「やかましいわ!」
なんでコイツはそのムカつくツラを見せる度に人の家の窓なりドアなりをぶち破るか。その爆音のおかげでアイツがアレで俺がソレで結局こうなるんだ。
「大体、テメェ何しに来やがった……
「うん!よくぞ訊いてくれたね!」
今日はバレンタインディで特別親しい人と過ごすのが定番だからね、フリッピーくんはフレイキーがいるだろうから安心だけど君は一人だろ?こんな日に一人ぼっちの可哀想な君の存在はヒーローとして見過ごせないからね!こうして音速で馳せ参じたというわけさ!
「ほーおぉ?」
なるほど、確かにテメェは特別だ。特に念入りに殺してやる。
直にアイツの気が付く時間だ。アイツがチビの死体を見たら絶対に泣くし、俺を恨んで(つまり自分を呪って)塞ぎ込む。そうなったアイツはうっとおしいし、アイツを守るという俺の存在意義まで揺らいでくる。
せめて今日はそんなことは御免だったのに、この青モモンガ野郎は綺麗にぶち壊してくれた訳だ。俺の、アイツの、(俺達の、)邪魔をした罪は死よりも重い。
「ヘイ、ファッキンヒーロー!お望みどおりに相手してやるから、後であの世で悔い改めな!」
「ふふん、覚醒くんは照れ屋だなぁ」
もういい。黙れ。とっととくたばれ阿呆ヒーロー!