幸せの森のお話集

10年以上前に一年間ほど書き続けた、ハッピーツリーフレンズの二次創作集


 
 なかよくしたい話
 
 フリッピーの過剰防衛システムこと“彼”にとってはこの世はフリッピーか殺す獲物かの二区分しかなく、フレイキーのことも、せいぜいがフリッピーのオマケぐらいに思っていて、そのせいだろう。なにかしらが引き金となって俗に言う『覚醒』状態として表に出た時、どうしても殺しすぎる。
基本的にその点について反省する気はさらさらないのだが、それでも偶には溜息だって吐くこともある。
……あー、やばい。やりすぎた」
そう、今回は殺しすぎた。そこいらに転がる死体をざっと数えれば両手で足りない。
さらにすると数もまずいが犠牲者もまずい。累々たる屍の中にはそれこそフレイキーまで含まれているのだ。
起き抜けのテンションとは兎角に恐ろしい。
並み外れたオーバーキル自体は“彼”にとって少しばかりしくじったという程度のことだが、フリッピーからすればいっそ死にたいくらいの大失態で、こうなると後が非常に面倒くさい。
泣く。嘆く。怒る。何かにひたすら謝る。これが非常に鬱陶しい。
「もういっそ俺も死んどくか……
つまり、死んだらリセットの原則である。どうせまた息を吹き返すと思えば、死のハードルはそれこそ死ぬほど低い。ましてや何事にも手段を選ぶ気がない“彼”だ。大した逡巡もなく、懐から出したベレッタをこめかみに当てる。
死の恐怖から守るためにいるくせに自らの手で殺すという矛盾した行為に暗いものが込み上げてくるが、それですらも引き金を引いてしまえば霧散するだろう。
「ま、お前まで痛くないように一発で死んでやるよ」
「それは困るなあ!」
受け取り手のいないはず呟きに、言葉とは裏腹のひどく爽やかな声が応えた。
聞き慣れたくもないのに聞き慣れてしまった、ヤツの声。
「今更お出ましかよ、だめヒーロー」
殺人鬼が一人目をぶっ殺しかけた辺りでしゃしゃり出てきやがるのがヒーローってやつなんじゃねぇのかよ、と自分に向けていた銃口の先をスプレンディドの額に移しながら呻る。
しかし、私にだって事情ってものがあるんだよ、とヒーローは悪びれも身動ぎもしない。
「折角の天然酵母と無農薬小麦で作ったパンが焦げてしまったら、君だってがっかりだろ?」
またあとでフリッピーくんに渡しておくから、仲良く二人で食べてよ。と朗らかに言う。
スプレンディドにとっては、取り消しが前提の惨殺の阻止よりもこだわりパンの焼き上がり具合の方が重要なのだというのだろうか。だからこいつはクソヒーローなんだ、と声に出して言えば面倒臭いので心中で毒づく。
「で?なにが困るんだって?」
俺が死のうが生きようが、テメェに関係ないだろうが。照準は正確に額に合わせたままで“彼”は険悪な声で問うた。
そんなの決まってるじゃないか、と無駄に勝ち誇った笑顔を浮かべながらヒーローはゆっくりと着地。
胸を張って堂々と宣言した。
「なにを隠そう、私はキミが大好きだからね!そう簡単に死なれたら悲しくて泣きそうさ!!」
「知るか、勝手に泣け。っつーか、今思いっきり笑ってんじゃねぇかよ」
そう指摘すると、スプレンディドは更に嬉しそうに笑った。無駄に眩しい。無駄に朗らか。
「だって、今、君は生きてるじゃないか」
ついこの間までは私のことなんか気にしないで引き金を引いていた君が、今日は私と話をするために生きていてくれるなんて。
「そんな幸せ、他にあると思うのかい!?」
異論は聞くが認めない、とばかりに言い放つ。無駄に眩しい。無駄に朗らか。
“彼”はとても嫌な顔をして、ため息交じりに応えてやった。
「山のようにあるんじゃねぇの?」
とにかくウザいからお前も死んどけ。言うが早いか轟く銃声。
“彼”にはフリッピーか殺す獲物かの二区分しかない。この世界ではそういう区分だと決めている。
だから、「死んだ先の世界でなら仲良くしてやるよ」
本日二発目の銃声がこの世界にこだました。