幸せの森のお話集

10年以上前に一年間ほど書き続けた、ハッピーツリーフレンズの二次創作集



きづいてくれるひとのはなし
 
 「こんにちは、フリッピー」
花が咲いたような、という比喩がそのまま人(というかリスというか人)の形をとったような(二重語?の悪い見本)笑顔を浮かべたギグルス。
逃げ道を塞ぐように正面に回り込んで見上げてくる彼女に、フリッピーは少し気押されながらも笑顔で返した。
「やあ、ギグルス」
何か良い事でもあったのかニコニコとご機嫌なギグルスには悪いのだが、フリッピーは少し焦っていた。
今日は精神安定剤のストックが底をついていて、飲んだ量がいつもより大分少ない。
多分、通常よりもボーダーが下がっている(なんのボーダーかって、それは当然“アレ”に決まってる)。
こんなに近くにいられては、きっとすぐに殺してしまう。
「あのさ、ギグルス。ちょっと悪いんだけど……
「うん、そうだね、ごめんね」
とにかく謝って辞去しようとするフリッピーを遮って、ギグルスが先に謝った。
え、なんで、と聞き返そうとするのをまたもや遮り、ギグルスがポシェットから出した黒い何かが、鳴った。
とてもとても、何かによく似た破裂音。
凍りつくように見開かれたフリッピーの目に、うっすらと黄色い狂気が差す。
それを確認したギグルスは、音だけは立派な拳銃のおもちゃ(トゥーシーから借りた)を放って捨てた(別になくなったって、カドルスのじゃないから構わない)。
「ご機嫌いかが、軍人さん?」
「またお前か……
“彼”は深く深く嘆息した。そして実に投げやりな調子で、
「そのスカート、だな」
「そう!ママが作ってくれたの!」
嬉しそうに踊るようにその場でクルクル回った。
動きに合わせてふわりと広がるスカート。
布地も飾りのレースも自分で選んだの、と言うだけあって、それはとてもギグルスに似合っている。似合っているのだけれど。
「なんで新しい服だのリボンだのを買うごとに俺に見せようとするだよ、お前」
「だって、そういうのに気付いてくれるのって、軍人さんだけなんだもん」
カドルスもトゥーシーも全然分かってくれないし、モールさんなんてそもそも見えないし、ランピーは論外だし(ていうか死んじゃうし)。
ギグルスは頬を膨らませる(まあ確かに分かる。特に最後。“彼”が死ぬ時の原因も大抵が奴だ)。
しかしそう言っても、だ。
「会ったら死ぬのは俺だって同じだろうが」
これから殺すしな。と当然のように“彼”は言う。
そもそも出てきて殺さなかった相手の方が少ない。
そんな自分をわざわざ呼び出してすることと言えば新しい服のお披露目なのだから、全くもって理解できない。
不可解そうに顔をしかめる“彼”に対して、ギグルスは愛らしく笑っていう。
「乙女はね、可愛いって認められるためなら命だって懸けられるの!」
女ってのは戦場とは違った意味で怖い。“彼”は心中で呟きながら指を鳴らした。
こういうふざけた逢瀬も悪くはないが、そろそろサヨナラの時間だ。
そうだね、とギグルスは実に優雅にスカートを摘んで一礼してみせる。
いつもこの瞬間だけ“彼”は殺すのを止めてやろうかと考える(結局はあり得ない選択肢なのだけれど)。
あんまり汚さないでね、と彼女は言って満足そうな顔で目を閉じた。