幸せの森のお話集

10年以上前に一年間ほど書き続けた、ハッピーツリーフレンズの二次創作集


 
たばこのみとそのとなりのしょうじょの話
 
「せっかく!せっかく、あのフリッピーとデートで、しかもお花までくれたのよ!?」
「花ぐらい、いっつもチビにホイホイやってるぜ」
特に騒ぐ話じゃねえよ、と親切に教えてやったら、ギグルスはむぅっと頬を膨らませた。よくふくらがるもんだ。そういえばリスだったか。
「でも、純粋に女の子ではきっとわたしが初めてだった思う」
何のプライドなんだか微妙に食い下がってくるが、こちらも二十何年それなりに生きてきた訳だから、今更初めてってことはない(戦場から帰った後は(主に俺のおかげで)随分とご無沙汰みたいだが(俺が遊ぶ分にはいいが、コイツが遊ぶのは気に喰わない))。
そんな口には出さない事情はお構いなしに、コイツは更にブーたれて文句を言い続ける。
「焼き餅にしたってひどいわよ」
どうせフリッピーが他の人と仲良くするのが気にいらなかったんでしょ、とガキらしくふくれっ面したままのくせに妙に醒めた調子で言った。
女という生き物は、ガキだろうがなんだろうが中々侮りがたい生き物だ。それは特殊工作部隊にいた女連中に限った事では無く、こんな片田舎のあくびが出るほど退屈な町にも当てはまる。
オーケー、認めよう。確かに正直なところで、あの馬鹿がヘラヘラしているのにムカついたと言うのはある(普段は俺には口うるさいだけのクセに!)(チビ相手についてはもう諦めた)。
「喧しい。お前の言い分は分かったから、いい加減に失せろ」
「あれ、今日は殺さないの?」
大きな誤解があるようだが、俺も別に四六時中殺してる訳じゃない。気の乗らない時だって稀にある。
どういう時に気が乗らないか。
「これ吸うから、殺さない」
上着の隠しから取り出した煙草とライター。
一番いいモクは硝煙だが、こっちだって悪くない。アイツはめっきり吸わなくなったが(チビと俺の教育に悪いだかなんだかほざいてた)、主導権が俺にある限りは好きにやらせてもらおうじゃないか。
これ見よがしに煙を吹き付けてやったら、涙目で咳き込みながら恨みがましそうな顔をする。殺さないでいてやったのに恨めしそうな顔をされるのは心外だ。
「たばこ!吸っちゃダメ!」
「なんで?」
「だって、軍人さん、未成年!」
未成年。未成年、か。まあ確かに『俺』は20を切っている。コイツに歳を教えてしまったのは失策だった。
(「前にランピーの病院を手伝った時に聞いたの。多重人格って、年齢も人種も性別だって違うこともあるって。だから、あなたはどうなのか気になって。ねえ、いくつなの」「……あー、こんなもんだろ」「へぇ、フリッピーの方が大分お兄さんなんだね」というやりとりをしたのが、おおよそ1か月前だ)
「ガワはとうの昔に成人済みだ」
「じゃあ、身体に悪いから!」
「俺らは早死にしたいの」
大体からして、この世界は簡単に死んでも簡単には死なない。
これで少しぐらい肺がやられたところで、何かで死んで生き返ったらチャラになる程度のことだ。
「背が伸びなくなるのよ!」
「180ありゃ上等だろ」
今更伸びる可能性は低いし、ランピーほど馬鹿高くっなったって逆に機動性に劣る。
俺としてはむしろウエイトの少なさが気になるところだ。
クマ本来の筋力で補ってはいるが、現役の頃に比べたらかなり落ちた(このバカ、平和ボケしやがって!)。
「副流煙!あなたはよくても周りが死んじゃう!」
「俺のせいで周りが死ぬのなんざ今更の話じゃねぇかよ」
しかしいちいちうるさい女だ。馬鹿フリッピーとチビガキとはまた別のやかましさだが。
「っつーか、これ吸ってる時は殺さねぇっつってんだからいいだろ、別に」
「やめてよ、お洋服に臭いが付いちゃうじゃない」
「じゃあどっかいけばいいだろ」
「いーやっ!死んじゃう心配なしにあなたと並んで座ってるなんて、フリッピーとデートするよりもっとめったにないことだもん」
折角だから、お話ししましょ。
そう言って名前の通りに笑う。
ああそうか、アイツはこの笑顔に騙されたという訳か(というか、流されたのか?)。
アイツじゃないが、ため息が出る。その息だって煙草の匂いが雑じっている。
……煙草吸ってるから殺さないっつってんだから、これ捨てたらお前は死ぬ訳だが」
安全に俺と話したくて、だが臭いが嫌だから煙草は止めろって、一体どうしろというんだこの嬢ちゃんは。
むぅ……、そうよね、そこがむずかしいのよ、と困ってるようには全く見えない困り顔になる(女のこういう顔を見ると、やっぱりチビは女じゃなくて男だと思う)。
じゃあね。笑顔のままに手を打って、最初から出ていただろう結論を、
「次からはせめて甘い匂いの煙草にしてね」
「精々気が向いたらな」
どの銘柄がコイツの好きそうな甘ったるい匂いなのか知らないし、それを誰かに訊くのも馬鹿馬鹿しい。
でもまあ、この味も飽きてきたところだ。
いろいろ試してたまたま嬢ちゃんのお気に召すのがあったなら。
コイツが隣りにいる時はそれを吸うことにしておいてやる。