幸せの森のお話集

10年以上前に一年間ほど書き続けた、ハッピーツリーフレンズの二次創作集




 はなでかざる話
 
 小さな花の咲き誇る野原。その真ん中で。
「フリッピー、絶対に絶対にそのままだからね!?軍人さんと交代したらダメだからね!?」
「大丈夫だよ、フレイキー。俺、今寝てるから」
 一生懸命にフリッピーの髪を花で飾るフレイキーは、それはそれは怯えていた。
フレイキーにとってフリッピー自体は怯える対象などでは全く無いけれど、如何せん彼には恐怖の覚醒スイッチがある。
 自分の行動でそれが入ることはそう滅多に無いと分かってはいても、このタウンの至る所に張り巡らされた死亡フラグの数々(主にランピーとかランピーとかランピーとか)の前ではそんな経験則はお守りにもならない。
 このタイミングで覚醒されたりしたら、「俺の時に頭とか腹とか背中とか触りやがったら殺すぞ」と常々公言している彼に一切の問答は無用で殺されるに決まっている。
 それでも、フレイキーは戦々恐々としながらも彼の髪に花を編み込むのを止めない。この子にしてみれば破格の勇気だ。
 フリッピーも『彼』ではないことを証明するように、絶えずフレイキーに声を掛けて励まし続ける。
 
 何故に二人がこんなことをしているのかというと、話は数週間前に遡る。

 フリッピーの誕生日に、フレイキーはチョコチップクッキーと手作りの花冠を贈った。しかしクッキーも花冠も二人分で、彼らが何故かと訊くとフレイキーは「だって“フリッピー”のお誕生日だよね?」と首を傾げた。
「えーっと……
 残念なことに、これがまた違うのだ。だって『彼』はフリッピーが生まれた時からいる訳じゃない。
(ちょっと、俺!これってなんて説明したらいい!?)(知るかよ)(だってこれ言っちゃったら絶対にフレイキーが泣くじゃないか!!)(だから知るかっつの!チビのことはお前の担当だろ!?)(ああもう!そうやっていっつもややこしいことは全部俺任せにするんだから!)(ややこしいってお前なぁ!普段、俺がどれだけ苦労して死亡フラグ抹殺してやってると思ってんだよ!?)(それこそ頼んでないよ!大体、キミ、殺したら殺しっぱなしで引っ込んじゃって、片付けとかそういうの全部やってるのは僕なんだからな!)
「フリッピー?」
 フレイキーの怪訝な声で、フリッピーは脳内で繰り広げていた夫婦喧嘩もどきから現実に引き戻された。しかしこれって結局はただの自問自答なんじゃないだろうか?
 まだちょっと意識の端で『彼』が(なんだよ!お前は俺の嫁さんかよ!)とかなんとか喚いている。それこそ夫婦喧嘩だ。ちょっと黙れ。
「えっとね、フレイキー。僕と俺の誕生日はちょっと違うんだ」
「そうなの?」
「うん、ほら、なんていうか、俺は最初からいた訳じゃなくて、こう、戦場にいる時にね……
「じゃあ、いつが軍人さんのお誕生日なの?」
(って聞かれてますよー、軍人さーん)(あーもう、いいじゃねぇかよ。あの日で)(……いいの?)(しょうがねぇだろ。ただし、何があったかは言うなよ?泣かれたらめんどくせぇ)(そうなったらなにもしないで僕任せのくせに)(しつこい!テメェの大事なもんぐらいテメェで面倒見やがれ!)(……そうだね)
 それなら、確かにキミのフォローをするのも僕の仕事だ。
 フリッピーは気取られないぐらいに小さく深呼吸して、そして言った。
「×月×日」
 絶対に忘れない日。忘れてはいけない日。
 『彼』が生まれた日とは、つまりフリッピーの精神が戦場での現実に耐えきれなくなったあの日。
「それが、僕が僕と俺になった日だよ」
 フレイキーはまだ子供だけれど、臆病な分だけ他人の心の機微に敏い。フリッピーの表情から何か具体的なことは分からなくても察したのだろう。どうして誕生日になったのかは訊かなかった。
 ただ、とても生真面目な顔で、フリッピーの目を真っ直ぐに見つめて言った。
「じゃあ、その日にまた絶対に三人でお祝いしようね」
 ただそれだけの言葉に、自分も彼もこのまま存在していいんだと思えて、フリッピーは贈られた花冠をそっと握りしめた。
 ちなみにその後、二人分のクッキーは三人で分け、花冠は片方がフリッピーでもう片方はフレイキーの頭上に収まって三人お揃いということにした。

 さて、それから数週間後、つまり現在。フレイキーの言葉は実行されようとしていた。
 フリッピーによる事前調査では(欲しいもの?くれるってんなら、肉とか銃とかナイフとかよこせ)とのことだった。肉はともかく(そもそも『何』肉かが色々と問題だ。一応熊の端くれだし)、凶器をやる訳にはいかない。「まあ、何を言ったって結局は僕な訳だから」とのフリッピーの意見により、今回もチョコチップクッキーと花ということになった。
 しかし、ただ渡すだけなら『彼』のあの気性だ。絶対に受け取らない。特に花。下手をすれば逆ギレで殺される可能性だって否めない。
 結局、二人は強硬手段に出るしかないと言う結論に達した。フリッピーであるうちに髪を花で飾って、頃合いを見て『彼』に替わるのだ。
「完成したら、俺に交代するからね。おめでとうは、キミが言うんだよ」
……うんッ」
 でも、お花に怒って殺されちゃったらどうしよう。そう心配しながらもフレイキーの手は止まらない。
「だって、絶対にお祝いするんだ」
 そう言い切った時の目には怯えの色は全くなかった。
「大丈夫だよ」
 今日、何度言ったか分からない言葉をフリッピーはもう一度繰り返した。