幸せの森のお話集

10年以上前に一年間ほど書き続けた、ハッピーツリーフレンズの二次創作集



ふゆのひとびとの話
 
 幸福の木の街にも冬がやって来た。
 木枯らしが吹きすさぶ通りを、よく似た顔が二つ並んで歩いている。
 片方がげんなりとした顔でもう片方に話しかけた。
「寒ぃな、リフティ」
「寒ぃよ、シフティ」
「おい、リフ。尻尾貸せ」
 言うが早いか、シフティはリフティのふさふさとした尻尾を引っ掴んで己の首に巻き付けた。
「自分の巻きゃいいだろ!引っ張んなよ、痛ぇっつの!」
「うっせぇ!自分の尻尾とお前の尻尾で二重に巻くんだよ!」
「ズルっ!シフこそ尻尾貸せよ!可愛い弟が凍えていいのかよ!?」
「ジャンケンで決めた程度の兄弟順に何の優遇があるかっての!」
 彼らの脳内に二人で尻尾に包まるという考えは浮かばない。そちらの方が暖かいのは確実なのだが、いい年した男兄弟が寄り添ってるのも如何なものかという尤もと言えば尤もな意識ゆえの不実行である。
 まあ、人目が無ければ(たとえば自宅)割と平気でやるのだが(なんせ双子だ。生まれたての時は始終ひっついて母親の腕の中で寝ていた仲だ)。
 互いの尻尾の争奪に熱が入りすぎて遂には手が出るか足が出るかの乱闘に発展しかけたその時(しかし本当にそうなれば確実なる死亡フラグだ)、急にリフティの動きが止まった。
「シフ!あれ!!アレアレアレアレアレ!!」
「あ?」
 リフティが指差す先には『中華まん始めました』の幟とスチームマシーンと売り子のランピー。
 なぜに屋外で中華まんを売っているのかとか、そもそもアメリカにこの手の中華まん販売方式が存在するのかとかそういう野暮は砂糖をまぶしてナッティの腹の中に収めておくことにする。
 とにかく冬のぬくもり三大神器(他に鍋物とコタツが挙げられる)を見て、二人の目は俄然輝いた。
「よぉーし、今日の獲物はあれだ!」
 シフティが声高に宣言すれば、リフティが雄叫びをあげる。
「なんかランピーいるし、スチームマシーンとか確実に蓋に挟まれて手首切断か側が熱すぎて火傷フラグだけど知るか!寒ぃんだよ、オレらは!」
 かくして二人は、青い死に神が番をする冬の至宝の奪取へと乗り出したのであった。

 * * *

 さて、別の通りにもならんで歩く二人がいた。こちらは別に同じ顔をしている訳ではなく、青年と少年(少女も含んだ年少の者という定義での、だ)という凸凹とした組み合わせである。
 青年は傍らをピヨピヨとついて歩く少年に訊いた。
「フレイキー、寒くない?」
「へーきだよ、フリッピー」
 これ、すっごくあったかいし。とフレイキーはぐるぐるに巻いた人参色マフラーに顔をうずめる。
 それは良かった。フリッピーは得意げに笑った。この人参色のマフラー、更には揃いの帽子と手袋までもがフリッピー作なのである。
「フリッピーすごいね!マフラーもぼうしもてぶくろも作れちゃうんだもんね」
「伊達に元特殊工作部隊じゃないからね!」
フリッピーは少しばかり得意げに胸を張る。
 『いや絶対それ関係ねぇって!』とフリッピーの脳内で覚醒が叫ぶが、フリッピーには無視されてフレイキーには聞こえる訳もなく、彼のつっこみは人知れず空しく風に消えた。兎角、このようにしてフレイキーは日々『特殊工作部隊』というものに間違ったイメージを膨らませていくのであった。
 ひとしきりマフラーでぬくぬくしてから、急にフレイキーは心配そうな顔になってフリッピーの顔を仰ぎ見た。
「フリッピーは?フリッピーは寒くない?」
「うん、フレイキーの作ったマフラーも暖かいからね」
 そういって、巻いているマフラーをそっと撫でる。草色のマフラーは網目が少し歪で、しかも所々ほつれている。
 フレイキーがマフラーを作りたいと言い出したのは、そもそも二カ月以上前のことだった。しかしお菓子作りと編み物は使うセンスが違うらしくてフレイキーの作業は遅々として進まず、付き合いで一緒に編み始めたフリッピーがマフラーその他防寒具一式を編みあげてそれでもまだ時間が余ったぐらいに時間がかかった。
 ゆっくりぎこちない手つきでフリッピーのため編みあげられたマフラー。少々不格好であっても、あの懸命さを思えばそんなこと微塵も気にならない。
この暖かさ、出来ることなら。
「う?どーしたの、フリッピー?」
「うん、俺にもマフラーとかあげたいな、と思って。ちょっと拗ねてるから」
『拗ねてねぇよ!』
 またも叫ぶが、表に出ていない人格に発言権などありはしない。覚醒の叫びは再び闇に葬られた。
 軍人さんにもあげるって、
「フリッピー、もうひとつがんばる?」
「うーん、でも僕が作ったらそれって結局自分で自分にあげることになるしなぁ」
「じゃあボクががんばる!」
「えーと……、冬がほとんど終わっちゃうんじゃないかな……
「うぅ、だよねぇ……
 作業の遅さに自覚はあるらしく、フレイキーは少し泣きそうになりながら呻く。
「じゃあ、こうしよう。僕とフレイキーで何センチかづつ編んで、しましま模様に縫い合わせるんだ」
 シフティとリフティの尻尾みたいな感じにさ。これなら半分ずつだから一ヶ月ぐらいで出来るよね(まあ、実際は僕が少し多めに編むつもりですよ、大体2:3ぐらいの割合で)。
 フリッピーの提案にフレイキーは目をキラキラ輝かせた。
「おぉー、すごーい!フリッピー頭いいね!」
「それほどでもないよ。じゃあ早速毛糸を買いに行こうか」
「軍人さんは色はなにとなにがいいかな?」
「えー?俺ー、何色がいいー?」
……あーもう!好きにしろ!俺は知らん!!』
 どうにでもしやがれ、と叫んで覚醒はすっかり奥に引っ込んだ。最近(一度盛大に自己対話という名の大喧嘩をして以来)、なんとなく彼の扱いが分かって来た。どうも存在を受容されると弱いらしい。そういう面を知るにつれて、どうにか付き合って行けそうな気がするのだから不思議だ。
 これで過剰防衛という名の殺戮(スプレンディドは過保護なんだとか言っていた)さえ控えてくれれば、フリッピー的には言うことは無いのだが。
「軍人さん、なんて?」
「フレイキーと僕の好きな色でいいってさ」
「ボクの赤とフリッピーの緑がいい!」
「なんだかクリスマスっぽい感じなぁ」
 俄然張り切るフレイキーの要望を、フリッピーも笑って賛同する。
「それならクリスマスプレゼントってことでがんばってみようか」
 フレイキーは敬礼をして、ぴょんぴょん飛び跳ねた。
「らじゃー!」
 そうして、一見して二人連れの三人連れは手芸屋に向けて歩き出した。
  *

 さて、上空に一人、荷物を抱えた人物がいた。
 青ジャージに赤のマフラーという微妙なセンスの彼は、両手にスーパーマーケットのレジ袋をぶら下げて飛んでいた。比喩ではない。彼は飛べるのだ。なぜならば、スプレンディドはヒーローだから。
 下を見ればいつもの双子が何やら白くまるいものに喉を焼かれて死んでいるし、凸凹の緑と赤のもこもこが歩いている。空き地ではお菓子を大量にもった子供が雪にシロップをかけて馬鹿食いし、メガネの子供がそれを呆れて眺めていた。
公園で遊具を修繕している大工と、少し離れたベンチには暖かい紅茶でも入っているのだろう魔法瓶を抱えた少女も見えた。いつも真っ先に惨劇に巻き込まれる少年と何かと助け(そこね)ることが多い少女は、どうやらお互いに似せた雪だるまを作っているらしい。
 皆、それぞれに冬を満喫しているらしい。
 ふいにヒーローは地に降りた。レジ袋を地面に置いて、懐から携帯通信機を取りだす。
 短縮ボタンを押して、数秒。
 呼び出し音が切れて、カンマ数秒。
 相手の第一声なんて待たない。先制あるのみ。
「あ、もしもし、ドントくん?今、暇かい?暇に決まっているよね?ちょっと一緒に鍋なんて」
「食わない」
 通信は無情にも切断され、スピーカーからはツーツーツーと気遣いの欠片もない無神経な電子音。
 ヒーローにあるまじき、それは鮮やかにして惨めさの濃い敗北である。
 しかしヒーローはめげない。負けない。挫けない。
 気を取り直して、レジ袋を両手に再び空を駆けだした。
 行先は自宅。今夜は一人で鍋である。
 幸せ独り占め万歳!そしてリア充爆発しろ!