幸せの森のお話集

10年以上前に一年間ほど書き続けた、ハッピーツリーフレンズの二次創作集


 
いたずらのひの話
 
 「それではぁ、これよりぃ、作戦を開始するー」
「はーいッ」
緑色の大きいののやる気があるのか無いのか分かり難い調子の号令に、大小の赤いのが張り切った声で返事する。
緑色のが背負っていたサブマシンガンを構えると、赤いのの小さい方がは大きい方の後ろに隠れ、大きい方と揃って耳を塞いだ。
そして轟くけたたましい銃撃音の歌。
辺りに漂う硝煙の匂いに緑色の、もといフリッピーの眼が獰猛に光る。
大きい方の赤いのことスプレンドントが、はてこれは優しい方か怖い方のどちらだっただろうかと顔に出さずに悩んでいると、後ろの小さい方、つまりはフレイキーが「今のはこわい方だよ」と呟いた。
「ヒーローくぅぅぅん、あぁぁそびぃぃましょぉぉぉッ」
張り上げる声は珍しく上機嫌で相変わらず凶悪だ。
怖い方のフリッピーは穴だらけになっても辛うじて蝶番に引っ付いているドアだったものを更に蹴り飛ばし、家の奥に向かってもう一曲ぶち鳴らした。
そして舞い上がるほこりと硝煙に紛れてスプレンドントとフレイキーに合図を送る。
それを受けて、赤いでこぼこはめいめいに頷き走り出した。
その背中を見送って、フリッピーはさらに獰猛に笑うと腰にぶら下げていたガスマスクを被った。
ガチャガチャと派手な音を立てて割れた花瓶やらを踏み越えながら現れたのは青色モモンガ。
ご丁寧なことにいつもの青色ジャージに赤色覆面に風呂敷マントのフル装備で、頭を掻きながら、やあ軍人くん、と朗らかに話し掛けてくる。
「ちょうど今パンプキンプディングを焼いてたところなんだけど。あ、そのガスマスクはひょっとしてあれかな、ハロウィンの仮装のつもり?」
相変わらず物騒だね、などと自分のワンパターンさを棚に上げて玄関ポーチをひとしきり見回した。
見事な惨状を前に、酷いよ掃除が大変じゃないか、と嘆くけれど、そんなことはフリッピーの知ったことじゃない。
やたらに所帯染みた苦情を聞き流して、これ見よがしに銃口を突きつけた。
「くそヒーローさんよぉ、イタズラしてやるから菓子よこしな」
「カツアゲはよくないよ、軍人くん」
それじゃあお菓子をあげるだけ損じゃないか。スプレンディドは呆れたように肩をすくめた。
それからにこにこと爽やか(らしい。“フリッピー”的には胡散臭い)な笑顔のままに、ねえねえ、と馴れ馴れしく距離を詰めてくる。
「お菓子をあげなかったら、一体どうなるのかな!」
ハロウィンの原則はtrick or treatだ。
お菓子をあげてtrickなら、あげない場合はtreatになるのが道理だろう。
treat、つまりはおもてなし。そう、おもてなし!
ふはははは、とスプレンディドが勝ち誇った笑い声をあげる。
「遂に私と仲良くしてくれる日がやってきたようだね!」
どれだけこの日を夢見たことか!お菓子なんて絶対にあげないよ!!
実に嬉しそうなスプレンディドに、お前はよっぽど友達いないのかと言いたくなる。
それに対してフリッピーはサブマシンガンを投げ捨てて、
「いいぜ」
背負っていたバットケースから取り出した妙にひしゃげた金属バットを構えた。
「丁重に持て成してやるよ」
言うが早いか、バットが風を切って振り下ろされる。
避けられたのか狙って外したのか、とにかく床を打ち付けるバットの音は嫌に鈍くてリアルに重い。
「軍人くんって、本気の時ほど獲物が本来は武器じゃないものになっていくよね……
そんでもって、銃とかよりやたらと凶悪に見えるし。
後ろに飛び跳ねて身を引いたスプレンディドは、引き攣った笑いを浮かべる。
「次は、当てる」
「ガスマスクの下の君の笑顔が目に浮かぶよ」
じりじりと、二人の間の距離が詰まる。
バットのとどく距離まであと三歩、二歩。
あと一歩。
さあ、始めよう。というその瞬間だ。
家の裏手から赤いのが二人飛び出してきて、はしゃいだ声をあげた。
「フリッピー、おかしあったよー!」
「パンプキンプディングだ」
フレイキーとスプレンドントが掲げて見せるのは、確かにさっきまでスプレンディドが焼いていたソレ。
色合いも良く、とてもとてもおいしそう。
「あぁッ!」
思わず二人の方を見て叫び声をあげた隙をついて、フリッピーの足払いがスプレンディドの体勢を崩す。
よもや獲物の方を使わずにそっちで来るとは思っていなかった。
尻もちをついて目を白黒させるヒーローに、ガスマスクの襲撃者はバットを突き付けて宣言する。
「残念。お菓子は貰ったよ、スプレンディド」
ガスマスク越しにくぐもっていても判る、明らかな声の転調。
「え?あれ?フリッピーくん?」
スプレンディドは更に呆然と呟く。ああ、なんて間抜け面。
金属バットをケースに戻して、フリッピーは赤いでこぼこに手を振ってやりながら声をあげた。
「フレイキー、スプレンドント。よくやった、作戦は完了だ!!」
「わーい!イタズラ、だいせいこー!」
「当然だ。こんな間抜けの家の襲撃なんて」
きゃいきゃいと跳ねて喜ぶ即席新兵二人に、じゃあ撤収だ、本部(多分フリッピーの家のことだろう)に着いたらフレイキーは紅茶を入れて、スプレンドントは他の子たちを呼んで来て、とテキパキと指示を飛ばすフリッピー。
これは確実に、まず間違いなく、穏やかな方のフリッピーだ。
一体どこまでが“彼”でどこからがフリッピーだった?
つまり全部が“彼”のふりをしたフリッピーで、
「私、だまされた……?」
「宣言通り、イタズラしたからお菓子は貰って行くよ」
うっわ、なにそれズルい!と、スプレンディドは頭を抱えてへたり込んだままで叫んだ。
トリックはトリックでも、悪戯じゃなくて入れ替わりトリックなんて!