幸せの森のお話集

10年以上前に一年間ほど書き続けた、ハッピーツリーフレンズの二次創作集


 
 
 うそのひのはなし
 
 「えいぷりるふーる?」
スプレンドントは色々な理由があって世間の色々なことをあまりよく知らない。だからフレイキーからたった今初めて聞いたそれがなんなのかが全然分からなくて、問いの形に音を変えて復唱した。
誰かに何かを教えるなんてあまりないことが嬉しいようで(いつもは自身がフリッピーに訊いてばっかりだ)、フレイキーはたどたどしくも一所懸命に説明してくれた。
本来はウソを吐いても許される日で、この村ではいっそ分かりやすいぐらいのウソで遊ぶお祭りらしい。分かりやすいウソってなんだと重ねて訊くと、いつもと逆さまの行動や仮装なのだという。
「だからボクも、今日はほら」
くるりと回ってみせるフレイキーの服は少女のものだった。黒が基調のゴシック風のワンピース。毎年ペチュニアが用意してくれるらしい。なるほど、確かにいつもならフレイキーの恰好は少年寄りだから、これで逆さまになるわけだ。
「ドントはヒーローだから、今日はいたずらしないといけないんだよ」と、それも逆さまなのか、フレイキーはいつもより少し強気な笑顔で言った。
さて、今更になってスプレンドントは気付いたことがある。
「今日はフリッピーと一緒じゃないのか」
スプレンドントはフリッピーとフレイキーを大体二人セットのものと思っている。特に理由もなく単体である場合は、十中八九で片方は死んでいる最中だ。それだってフリッピーは死なす側であることが大多数だから、いないのは大体がフレイキーの方だ。
フレイキーは「今日だってね、一緒に行きたかったんだよ」と少しむくれて頬を膨らませた。
「でもボクが一緒にいたらバレちゃうんだもん」
なにが、という点についてはどうしても教えてくれない。
「見たらドントにも分かるんだよ」
それじゃあ行こう、とフレイキーに手を引かれて出た家の外は、確かにあべこべでデタラメなウソで溢れていた。
ギグルスが「今日はトゥーシーとデートする日なの!」と言ってトゥーシーを引きずっているし(当のトゥーシーは「それって、オレにものすごい失礼じゃないか」と顔をしかめている)、カドルスは真面目ぶった顔で分厚い本(きっとスニッフルズに借りた)を読んでいる。ナッティは「お菓子なんて、甘いものなんて、だいっきら……やっぱり愛してるぅぅぅ!」と叫んでスニッフルズに呆れられている(うん、いくらなんでもそんな無理はいけない)。青く染めた鹿とラッコの剥製マスクを被っている二人組は、やはりランピーとラッセルだろうか。そう思って見ていると「あれ、外と中が逆なんだよ。」とフレイキーがこっそり教えてくれた。どうも毎年同じことをしているらしい。
なるほど、なかなか面白い。スプレンドントはすっかりこのお祭りが楽しくなった。
さて、そうなると自分はさっきもフレイキーが言っていたけれど、いたずらしてもいい、というかしなくちゃいけない。誰かに悪戯しろと言われたならば、相手はもう一人しかスプレンドントには思いつかない。
「フレイキー、手伝ってもらっていいか?」
「うん?」
なにを、ってそれは当然、スプレンディド探し。

 * * *

あら、とギグルスが声をあげて小さく手を振った。
振った先にいるのはフレイキーで、ギグルスには気付かないで行ってしまった。
「行っちゃった。一緒にいたのって誰かしら」
「めっずらしいよな。さっきもフリッピーに会ったけど、こういう日にあの二人が別行動なんて」
「でもあれは仕方ないわよ」
「なんでさ」
……気付かなかったの」
「何に」
「気付かなかったのね」
「いやだから何に」
「うん、だからトゥーシーはモテないのよ」
「は!?なに?なんでそんな結論!?」
「さっきの、フリッピーじゃなくて軍人さんよ」
「はあ!?んな訳ないじゃん!だってオレたち生きてるし!ていうか、優しかったし」
「だって、わたしのリボンがおろしたてって気づいたのよ?あれがフリッピーだったら絶対気づかない」
「えー……?」
「とにかくっ、あれはフリッピーのふりをした軍人さんよ。乙女のカンがそう言ってるの!」
「絶対違うと思うんだけどなー」

 * * *

大抵の場合の起きる順番はシフティでリフティなのだが、これがイベントのある日であればとたんに逆転する。お祭り騒ぎに対してクールにふるまうのがシフティであり、テンションが上がるのがリフティだ。まあ、どちらにしても騒ぎに乗じて二人で何かしらのイケナイことをするのだが。それになんと言っても今日はエイプリルフールだ。この村特有の流儀でいくならば今日一日はいい子ちゃんにしていなければならないところだが、そんなことは二人にしてみれば知ったこっちゃない。嘘をついていい日なんておいしいもの、放っておく手は断じてない。
まず手始めに、と互いの服を着る。ヘアーセットもいつもと逆の方向に流して、仕上げにリフティが帽子をかぶる。これで完成。トリックにおいて、双子の入れ替わりは基本中の基本だろう。見た目はもちろんのこと(双子なのだ、当然だろう)、おつむの向き不向きはともかくとして行動だけならお互いに完璧にトレースできる。
さて、出かけようかという段になって、シフティが戸棚からとっておきを持ってきた。ガラス瓶いっぱいに詰めた白い錠剤のようなもの。ご丁寧に異国語で何か書かれたラベルまで貼ってあるが、別にヤバいおクスリでも何でもない。ただの普通のなんの変哲もないごくごく一般的なラムネ菓子だ(ナッティであれば死亡フラグになる可能性もあるが)。その瓶詰めラムネをかさかさ振ってシフティが言う。
「ディスコに惚れ薬だっつーのはどうよ」
「消毒剤ってことならペチュニアでもいいんじゃね?」
「ポップならチビの夜泣きだな」
「ナッティに、もうそのまんまでものすごーくレアなラムネっていうのもアリだろ」
「とにかく最初に会ったおカモ様に合った効能でお譲りいたしましょう」
「直輸入の在庫オンリーにつきお値段割高となるのはご了承」
二人で顔を突き合わせてにやりと笑い合う。
意気揚々とメインストリートに出てみれば、毎年のことながらまるきりカオスな光景が広がっていた。何人か連れ立っていられると少々やり辛い。とにかく一人きりのやつはいないかと辺りに視線を巡らせば、向こうの通りを見なれた軍服のクマが歩いていた。
「カモ」「はっけーん」
二人の目がきらりと光る。だってあれはお人よしの代名詞みたいなもんだ。出来得る限り人好きの良い笑顔を浮かべながら、大急ぎで獲物の捕捉に向かう。
「おーい、フリッピー!」「いい精神安定剤があるんだけどさー!」
言いながら、左右で挟み撃つように回り込んで行く手を阻む。
それに対して返ってきたのは、
「あぁ?」
いつものフリッピーからならまず聞かない、低くてドスの利いた声。目の光り方だって猛獣(クマなのだから当然だけれど)のそれだ。シフティとリフティは一瞬だけ怯んで、すぐに笑って誤魔化した。
「な……、なんだ。軍人の旦那っすか」
「珍しいっすね、旦那がこういうどんちゃん騒ぎの日に外にいるなんて」
「ホントホント。フリッピーなら赤いチビでも連れて来てそうなもんすけど」
「るせぇ、さっきからずっとアイツのふりしてて疲れてんだよ。やれやれってアイツ、うるせぇし」
つーか何の用だ、用がねぇなら失せろ、と今日はいつにも増して機嫌が悪い。これはさっさと商売片づけてしまった方が身のためだ。しかし相手は退いたとはいえ、特殊部隊の軍人。たかが瓶詰ラムネで謀れるとは思っていない。だから、今からするのはいつもの『商談』だ。
「手榴弾、どうっすか」
……手榴弾?」
「そーそー、いつものやつ。お安くしときますよ」
「えーい!今回は思い切って切れ味抜群アーミーナイフも付けて銀貨4枚!おっかいっどくぅー!」
「そっか、やっぱり君たちだったんだ」
「へ?」
一瞬だけ無表情を挟んで、凶悪な不機嫌顔が一転した。どうなったかというと、とても穏やかな笑顔。
あれ、これ、旦那と違くね?とシフティは気付いた。
「僕が何回捨ててもさ、俺がどっかから家に持ち込むんだ。そういう手榴弾とか危ないやつ」
「えええええ?」
つーかさ、フリッピーじゃね?とリフティは悟った。
「そっかー、シフティとリフティから買ってたんだー」
二人とも僕とちょっとゆっくり話し合おうか、と笑顔のままで掴まれた手首が痛い。食い込んでる食い込んでる。超食い込んでる。
やっべー、今日も死ぬかも、とシフティもリフティも諦めたのだった。

 * * *

触らぬ神に祟りなしとはよく言ったもので、スプレンドントはフレイキーと一緒に少し離れた安全圏の物陰から一部始終を見物していた(もし何かあって死亡フラグが発動してもフレイキーは守ろうとは思っていた)。
えーと、まあ、つまり?とスプレンドントはなんとか自分で理解しようとがんばってみたけれど、どうにもうまく飲み込めない。分からなければ誰かに訊いて教えてもらう(教えてもらえたなら、ありがとうはちゃんと言う)。それがスプレンドントがスプレンディドに言われて唯一素直に従っている教えだ。だからスプレンドントは今回も分からないことを分からないと素直に認めて、フレイキーに教えてもらうことにした。
「フレイキー、あれは……?」
「フリッピーのふりをした軍人さんのふりをしたフリッピー。軍人さんにね、悪いこと教える人をああやってつかまえて、止めてくださいってちょっとお話しするんだって」
ね?ボクが一緒にいたら軍人さんじゃなくてフリッピーだってバレちゃうでしょ?とフレイキーはとても真剣な顔で言った。
あれは多分『お話し』するなんて程度じゃないんだろうとスプレンドントは思ったけれど、フレイキーはそう思っていないようなので、それは言わないでおいた。おやすみなさい、よく知らないアライグマの二人組。